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The Windup Girl

ねじまき少女の用語/登場人物

ねじまき少女 上 (ハヤカワ文庫SF)(パオロ・バチガルピ/鈴木康士/田中一江/金子浩)

上巻

ねじまき少女 下 (ハヤカワ文庫SF)(パオロ・バチガルピ/鈴木康士/田中一江/金子浩)

下巻

ファラン
白人(西洋人)のこと。初出は上巻P.21の「西洋人」に対するルビ。
メゴドント
遺伝子操作によって重労働用に改良された象。オッペルの象のように基本は人間に逆らうことはないはずだが、あまりに愚かな象使いに操作された結果、一頭のメゴドントが暴れ出して大参事が引き起こされる。
チェシャ猫
遺伝子操作生物の黎明期に、バイオ会社(カロリー企業)の重役が娘の誕生日用に作った猫。不思議の国のアリスのチェシャ猫や最後の大隊のネコ耳少年のように、そこにいてそこにいない。通常のネコと交配すると生まれた子供もチェシャ猫となり、結果的に全世界から普通のネコを駆逐してしまった。この教訓から、遺伝子操作生物からは生殖能力を除外することがデファクトスタンダードとなった。肉食で人間が死にかけると出現して死肉を食べる。逆に、殺せば普通のネコの肉なので人間が食べることもできる。ただしそれほどおいしくは無いようだ。
イエローカード
マレーシアで発生した、マレー系イスラム教徒(緑の鉢巻をしているためグリーン・ヘッドバンドと呼ばれる)の、華僑に対する民族浄化運動の生き残りでタイに亡命した集団(華僑なので当然、漢民族)。イエローカードという特殊なヴィザを持つため、イエローカードと蔑称される。
タン・ホク・セン
通常は、ホク・センと記述されるが、稀に「タン」と表記されるため、慣れるまでは困る。慣れた頃には、工場の同僚に呼ばれることはなくなるため、「タン」と書かれることは一切ない。マレーシアから亡命してきた中国人(老人)。マレーシアでは巨大な貿易商社を営んでいたため、各国語に通じ、会計、貿易実務などに精通している。そのため、スプリングライフ社に日本でいう経理部長相当のポジションで雇われている。比較的良い給料を得ているので、他のイエローカードと異なり、スラムのアパートに暮らしている。本来、イエローカードは就労ヴィザではないため、定職には着けない。したがってこれはホク・センの大きなアドヴァンテージ。
イエイツ
スプリングライフ社の元の経営者で、改良ネジマキの開発者。タイが持つ種子の遺伝子に関する重要な情報を本社(アグリジェン社)へ報告しなかったために(イエイツ本人は、改良ネジマキの開発、生産が職務で遺伝子についての諜報活動が必要と考えていなかった)、本社へ召喚されることになる。それが不服で自殺。実務に通じるホク・センをイエローカードにも関わらず雇ったのはイエイツである。
スプリングライフ社
改良ネジマキの開発、製造企業。歩留りは非常に低く、基本は赤字なのだが、製造物の需要は高いため、生産できたものはすぐにさばけるために、自転車操業状態で稼働している。親会社はカロリー企業のアグリジェン社だが、タイはカロリー企業の進出を許していないため、このことは極秘事項となっている。
カロリー企業
カロリーとなる農産物(小麦、米など)の種子を開発、生産、販売する企業。この時代では、あらゆる植物を根絶やしにする強力なウィルスと害虫が蔓延し、しかもそれらのウィルスと害虫が次々と突然変異していくために、対抗する作物を生産する側も次々と予測しては遺伝子操作を加えて種子を作らざるを得ない。しかし、ウィルスや害虫も元はマッチポンプだったような様子もうかがえる。いずれにしても、カロリー企業が存在しなくては、人類がカロリーを得るすべはほとんど無いため、圧倒的な政治力と経済力を持っている。
東南アジア
カロリー企業によって、ミャンマー、ベトナムなどはすべて崩壊している。おそらくカロリー企業の役員が財務省に送られてきているのだろう。
タイ
東南アジアで唯一、独自の種子バンクと遺伝子操作技術を持つために、カロリー企業に頼らずに農業を営める。このため、独立国家としての命脈を保っている。種子バンクと遺伝子操作技術の流出を防ぐため、鎖国に近い状態である(スプリングライフ社の進出でわかるように、一部のハイテク企業については極度の関税を課することで制限しつつ門戸を開いているが、カロリー企業とその生産物に対しては進出を許していない)。ただし、この政策によって、利用可能なテクノロジーは国際水準から遅れている。
環境省
種子バンクの保持、伝染病の発見と対策、闇カロリーの取り締まりなど、タイのライフラインを保つための機能と権限を集中させた省。環境省の実働部隊は制服から白シャツ隊と呼ばれる。海外からの生物流入による遺伝子汚染を防止する義務もあるため、通産省とは敵対関係となる。
通産省
通商産業省なので、国家の貿易、対外政策に責任を持つ省。
カロリーマン
カロリー企業に勤務し、各国を支配下におくために活躍する腕利きセールスマンに対する蔑称。
チャオ・クン・プラチャ将軍
環境省の省長。適度にわいろで私腹を肥やしてはいるが、国家に対する忠誠心は抜群。
アカラット
通産省の省長。タイの近代化のためにはグローバライゼーション止む無しと考えているので、カロリー企業やハイテク企業との関係改善と、対外通商の門戸開放を画策している。この方針により環境省とは対立しているが、国家に対する忠誠心は抜群であることに変わりは無い。物語的には、主役側ではないため、悪役のように描かれている。
12.12
多分、この日に環境省によるクーデターがあって、現在のタイの対外政策があるように読める。省長のプラチャが軍人なのもこれに由来するのであろう。
アンダースン・レイク
スプリングライフ社の現経営者(アグリジェン社の腕利きのカロリーマンで、ミャンマーの獲得に功績があったらしい)。前任者のイエイツに代わり、改良ネジマキを生産するかたわら、タイの市場に出回る農産物の動向を調査し、種子バンクの遺伝子情報を入手しようと画策する。
アンカーパッド
飛行船(貿易のための主要な輸送手段)を係留するための装置(上巻P.108では無数のアンカーパッドがバンコクの軍用飛行場にあると表現している)。ただし、通常、「アンカーパッド」の一言で、バンコク軍用飛行場のうち、貿易に利用される通産省(とその機関である税関)によって管理されている一画を意味するようだ。
ラタナ
環境省の科学者で、新種ウィルスによる伝染病の発見と感染防止のための研究を地下の生物化学研究所でしている。上巻P.134で、後述のカニヤに対して「ラタナがプロポーズすると思ったのに」と言及されているので、男かと思っていたら、下巻P.83では「……いい人だったわ」と女性語を話すように書かれている。が、良く読むと言葉遣い以外に女性であるらしい描写は一切ない。もしかすると、P.83で「だが、ラタナはあいかわらず美しい」と書いてあるので、訳者が美しい=美人=女性と感じて、女性語で訳してしまったのかなぁ? という疑惑もある。まあ、女性同士が結婚しても全然良いけれど、ちょっと気になった。もしかすると、オネエ言葉の美青年ということかも知れない。
チャヤ
ジェイディーの妻。2児の母。
子供女王
タイ王国の女王。子供なので子供女王と呼ばれている。国民は子供女王のために、忠誠を尽くしている。ただし実際の人間として姿を現すことがないため、実在するのかどうかはわからない。
ソムデット・チャオプラヤ
タイ王国の現宰相(にして摂政)。王権を侵害しているのではないかとかいろいろ言われているが、王宮の中で何が起きているかは誰もわからない。保持する権力は絶大(女王を人質にとっているような状態に近いようだ)で、秘密警察を利用して国政を好き勝手に操っているらしい。 なお、「チャオプラヤ」はバンコクを流れる河の名前で、「すごく貴い人」といった敬称として付けられているらしい。また、下巻P.342には「新たなソムデット・チャオプラヤとして国を守る」という表現があるので、人名ではなく、「チャオプラヤ河公」のような尊称なのかも知れない。
ピー
精霊。この小説では「幽霊」の意味で使われている。
ねじまき少女
出現箇所ではロボットのように読める。例)上巻P.83「ゼンマイ仕掛けのぎこちない足取り」「ときどきねじを巻いてくれる子たち」。しかし、後のほうではそのての描写は一切ないので、作者が途中で設定を変えたか、誤訳(「まるでゼンマイ仕掛けのようなギクシャクした動きで」とかscrewを誤訳したとか)か、どちらかと思われる。途中の描写からは、遺伝子操作によって開発した卵子と精子から工業的に製造可能な試験管ベイビーで、肌触りを良くするために毛穴を少なくしたせいでタイのような高温多湿な環境で激しい運動をすると体温が致命的に上昇するという特質を持ち(これをオーバーヒートと称するのでますます機械のように受け止めやすい)、同じく遺伝子操作によって卵巣を持たず、手足の動きに制限を(訓練によって)与えられた人間らしい。また、遺伝子操作でラブラドールのような犬の性質も与えられているために、ハウスと言われると家に帰る習性を持つということらしい。おそらく、イシグロカズオのわたしを離さないでに出てくる生体移植用の家畜人間と同様なものだ。というわけで、アンドロイドというよりは、バイオロイドと呼んだほうが正しい。バリエーションとして、千手観音のような工場労働者とか、忍者タイプの軍用ねじまきとかがある。人口減少によって若年労働者が枯渇した日本で開発されたため、おそらく元の遺伝子は日本人由来だろうから、見た目も日本人。結構長期間に及ぶ語学をはじめとした教育を受けさせられたりしているのに、実際にそれを活用できるかどうかは持ち主次第という点から、家畜人ヤプーのキミコを連想したりした。多分、価格は5000万円くらいで、タイへの持ち込み、持ち出しのそれぞれの時点で購入金額の同額が関税として課せられる。そもそもタイではねじまき人間のような遺伝子操作生物そのものが違法なので、この処置自体が日本企業優遇のための超法規的措置(したがってタイで売却することもできない)である。このため、持ち出し時に5000万円払うのであればタイで廃棄して、日本に帰ってから新しい商品を5000万円で購入したほうが良いと判断される。かくして、通常はタイへ持ち込まれたねじまき少女(といっても通訳をこなすし、秘書業務もこなすので、教育期間を考えると年齢は10代後半から20代前半と思われる)は、廃棄されるわけだが、主人公の一人のエミコは廃棄業者の闇取引によって別の購入者(ローリー)の元で生き延びることになった。ねじまき娘と書かれているときはどちらかというと蔑称で、ねじまき少女と書かれているときはニュートラル。
エミコ
ローリーに買われたねじまき少女。
源道
エミコの元の所有者。ミシモト社の以前の支社長。
ミシモト
日本企業。種子をタイに売っているようにも読めるし、高機能な船舶を売っているようにも読める。
ヒロコ
ミシモト社がタイ支社で利用中のねじまき少女。支社長のヤシモトの秘書。
ヤシモト
ミシモト タイ支社長。趣味は墨絵を描くこと。
ヒーチー・キーチー
操り人形。ねじまき人間に対する蔑称。
ジェイディー・ロジャナスクチャイ
バンコクの虎とあだ名される環境省の白シャツ隊の隊長。環境省入省後にムエタイで活躍したこともあって、国民的英雄である。本人もわいろとは無縁で清廉潔白な人生を歩んでいるために、敵が異様に多い。 どうも若そうに読めるが、実際は40代後半〜50代といったところで、プラチャ将軍とほぼ同期入省。将軍とはツーカーの仲で、同じく国家への忠誠心はものすごい。そのため、省内にも敵はいるのだが、将軍がかばってくれているため、平然と過激な取り締まりをする。
カニヤ・ティラワット
ジェイディー隊の副隊長。女性。子供時代に、環境省の(おそらく当時、単なる隊長だったプラチャ将軍が指揮する)白シャツ隊に住んでいる村を破壊、家族を殺害されたために(破壊そのものは伝染病の発生かなにかが原因なのでやむを得ないわけだが、その後の復興費がおそらくわいろによって隣村などへわたってしまったため、村は滅びた)笑いを失ってしまったと描写されている。ジェイディーを尊敬している。
ニワットとスワット
ジェイディーの息子たち。ムエタイの王者で、正義を貫くバンコクの虎たる父親をすごく尊敬している。
リチャード・カーライル
カーライル&サンズという貿易商社を営む混血(タイと西洋)の男。見た目はほとんど白人。海面より下になってしまったバンコクから水を海へ汲み出すポンプ(タイでは生産できない)の輸入を抑えているため、アカラットと対等な関係を持つ男。また、他のタイ在住の白人と異なり野望もあれば知恵もあるので、アンダースン・レイクはこの男とつるむことが多い。
ローリー
SMショーを売り物にするキャバクラというか娼館を経営する白人の老人。エミコの所有者。
カンニカ
エミコの同僚だが人間(ねじまき少女らしきことをエミコが考えるシーンがあるが、「同じようなクズ」という意味だと思う)。SMショーで、徹底的にエミコを虐待する役回りなのですさまじくエミコから憎まれているが、カンニカ自身もねじまき少女のエミコを気持ち悪いと感じているようだ。このショーの描写はR18なので、1950〜1960年代のSFを読んでいた頃と比べて、ほーSFのメインストリームもずいぶんと解放されたものですなぁと驚く。
ジーン
遺伝子のこと。ジーンハック・ゾウムシという単語が出てくるが、遺伝子(ジーン)操作(ハック)されたゾウムシのこと。どうも、日本人のジーンハッカーがおもしろ半分に作って(ワームを作ったモーリスみたく)野に放したことも世界の荒廃の一因となっているらしい。
ギ・ブ・セン(ギボンズ)
偉大な(黎明期からの)ジーンハッカー。ジーン・ハッカーは植物に害をなす生物を作るハッカーと、その生物に対抗できる植物を作るハッカーに分かれて戦っているわけだが、世界が小物ハッカーばかりになったので退屈して、新たなハックを求めて勤務先のカロリー企業から失踪した。見た目はハック中に患ったらしい病気(おそらく病気の進行はハックによって回避しているらしい)のために肉体はぼろぼろになった老人だが、頭脳の鋭さと偏見を持たない思考によって、作品内で一番好感が持てる好漢。
ナロン
アカラットの諜報員。
マイ
スプリングライフの社員で、小柄なために狭い場所に入って機械を修理したりするタイ人の女性。少女と描写されたり子供と描写されたりするためわかりにくいが、まともにスプリングライフに雇用されているのだから、16歳くらいと思われる。利発で役に立つうえに(おそらく逃避行中に殺された)娘と年恰好が近いことから、ホク・センが好んで行動を共にするし、漁村(養殖池なので内陸部)出身というカニヤとの共通点も持つため、脇役なのにいろいろと本筋にからんでくる。
ソムチャイ、パイ、
白シャツ隊の隊員。
笑い屋チャン、パク・エン、ピーター・クオク
イエローカードのギャング。
ラオ・グー
リキシャの運転手。ホク・センがアンダースンの外出用に雇った。
糞の王
メゴドント使いの組合長。そのほか市内の死体処理(処理した死体はカロリー源として売れる)なども管轄下にあるため、市中の金と労働力を抑えている。やくざの親分に相当する。労働力を抑えるために必要と考えたのか、イエローカードの庇護者でもある(住む場所――劣悪ではあるが――を提供しているのは糞の王)。
バニヤット、ヌー、ポム、キット、シームアン
スプリングライフの社員。
ドッグ・ファッカー
糞の王の子分。
グラハマイト派
ラッダイトと原理主義を併せたようなキリスト教の一宗派。カロリー企業の焼き討ちを行った過去がある。
オットー、ルーシー、クオイル、コッブ、ハッグ
ファラン・ファランクスと自称する不良外人。サー・フランシス・ドレイク・バーという酒場に入り浸っている。ハッグは宣教師。ハッグが属するのはグラハマイト派。
ブラック・パンサー
王家の親衛隊(軍隊)。
メタンガス
タイの主要エネルギー。街灯、食堂の燃料などほとんどすべてに利用されている。政府が供給する正規のメタンガスは燃えると緑の炎が出るため、闇流通のメタンガスと区別がつく。
白シャツ隊
環境省の実働部隊。ジェイディーのような正義の人もいないわけではないが、ほとんどは民衆の不正(たとえば闇メタンガスの利用)を見過ごす代わりに賄賂を受けているため(縄張り代を受け取ることで便宜を図るという点からはギャングと同じである)、非常に評判が悪い。特に権力者の不正を見逃すことでキャリア的な恩恵を受けられるため、出世もできる。逆に言うと、ジェイディーがいつまでたっても隊長どまりなのはいかに彼が潔白か(悪く言えば融通が利かない)を示している。また、ジェイディーの隊に配属されると賄賂を受け取ることがジェイディーに抑えられいてるために、実入りも少なく出世も出来ないということで、目端がきく役人はジェイディーの部下にはならない。
石炭
軍用車や重火器などのようなごく一部の国家的に重要な動力にのみ利用できる極めて貴重な資源。
石油
完全に枯渇してしまっているため、利用できないことはおろか、本当にそんな燃料があったのか? と実在を疑う人がいるくらいに伝説的な資源。
Last modified:2012/04/27 20:29:52
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