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日々の破片

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2005-10-25

_ クェイ兄弟

クェイ兄弟は、イメージフォーラムの配給だが、四谷じゃなくて六本木のシネヴィヴァンでやったんだと思った。もしイメージフォーラムでやってたら見に行かなかっただろう。だって狭かったから。

で、あまりの居心地の悪さに、こういう表現芸術があるのか、と驚いた。

ヤナーチェクは大好きだから退屈しなかったけど。でも記憶しているのは、トンボが2匹、賢い女狐の前奏曲のところで突っ立ってるところ。と書いているそばから死の家の記録とかも思い出す。作品紹介映画だったっけ。

で、奇怪なギルガメシュ(鳥と戦う話だと思った。妙なめがねをかけて)。あらためて収録作品の題をみると、はらさんが書かれているようにシュヴァンクマイヤーと英語風の表記だけど、これはまったく覚えてない(が、絵を見ると思い出すんだろうな)。

恐るべきストリートオブクロコダイル(大鰐通り)は、原作の気持ちを良く活かした傑作。紛れ込んだ街で自分が通りすがりだという事実を意識してしまうことから生まれる孤独と恐怖。

これって、文学では良く見られたモチーフだ。ぱっと見渡しても、萩原朔太郎の猫町(字は違うかも)とか、夏目漱石の夢十夜にもなかったっけ、内田百?(ケンは門に月。入力していると読めるのだがサーバーに行って返るとはてなくん)は得意だし、梶井基次郎とかにも見られる。と考えると、シュルツの原作もそうだけど、まさに近代ってやつをひとつ特徴付けるモチーフなのだろう。死都ブルージェも住んでるのだが死んでいると意識するから同じようなものか。(ウールリッチの時間に限りがある状況に追いつめられて証人を探すようなタイプのミステリにも似たような感じを受ける)割と良くある話だが、アイリッシュみたいにきれいにストーリーを一本通さないととりとめがなくなるので時代を超えて生き残るのは難しそうだ。現代ではあまりにも普遍的な感覚で何もことさら文学として表現する必要も無さそうだ。ヘンリーミラーかアーサーミラー(全然傾向が違うが名字が同じなのでわからなくなっている。多分ヘンリー)かが、エアコンの音がする部屋とか表現したけど、そのくらいありきたりである。今だって、HDやCPUクーラーのブーンって音に集中すれば、すぐそっちの世界がやって来る。チャラチャチャー(大鰐通りと言うと、このチャラチャチャーっていう音楽が耳に残って離れない)。って言うか、通りすがりが日常化して増殖しているわけだし。

しかし、近代文学にはありきたりかも知れないが、言葉ではなく映像として表現しようとするとそれは難しいかも知れない。もちろん娯楽の線を一本ひけば、ヒッチコックや2000人の狂人とかテキサスの虐殺とかできるんだろうけど。フェリーニの首飾りは傑作だしうまくできている。

つまり、幻想や怪奇の味付けが必要なのかも。で、クェイ兄弟のも結果的にそうなっている。ショーウィンドウの中は凍り付いているし、道路も街頭も違和感しかないし、仕立屋が自分を別の自分に作り替えてしまう。何も考えず、何も見ずに、機械的に。まさにありきたりな近代の夢だ。生産性万歳。属人性排除万歳。まさに現実の一歩裏側に回ったところにある幻想の街で時間が過ぎていく。思い出した。ネジが逆転することで示される時間の流れとか。近代のありきたりな夢の裏側にある孤独感というありきたりな文学的なモチーフ、でもそれを映像化するには、目がない人形を手で果てしなく動かしては撮影、動かしては撮影、という気が遠くなるような手作業を必要とするという矛盾した構造、でも本当に必要なのは作家のイマジネーション。クェイ兄弟はそういう仕事をしたのであった。すごい連中だ。

と考えると、そういった違和感を単なる能書き小僧の散歩の物語として描いて成功しているジャームッシュのロングバケーションとかは恐ろしいほど見事だ。というわけで、好きな作家はジャームッシュなんだが、それはこの場合、全然関係ないのであった。

そのクェイ兄弟の新作がそれから数年して(追記:このくだりは誤り。ボカノウスキーの作品をクェイ兄弟の作品と勘違いしている)、パルコパート3で(それともシードホールかな)公開されて楽しみに見に行ったら、できの悪いイーノみたいになっていてうんざりした。元の映像にディストーションをかけて(正しい言い方かどうかは知らない)分厚く重ねたような色調を出して細部の動きを吸収して、それによって妙に重くたゆたう世界が生まれる。ムンクの絵の背景とか、ゴッホの晩年の絵の背景とかに現実が変容する様とでも言えば良いのだろうか。美しくはあるんだけど、ものすごく退屈だ。でも日常の景色の退屈さが別の世界へ変容するってのもモチーフだな、と思ったりもするんだが、それを延々とやられたらうんざりだ。

なんか、新技法らしいが、すでにイーノを眺めて散々うんざりした後だったので、どうにもならない。海岸、海にとけ込む太陽、かな。イーノがプールサイドだから水の波紋という短絡的なイメージが湧くんだろうか。というか、映画館に腰掛けて見る映画じゃないよ。体調とかにもよるんだろうけど。と思い出している内に実は傑作だったのかな、とか思っても見たり。でも見れば夢想の世界に入りそうだ。

で、そんな技法(の進化形なんだろうが)を鳴り物入りで21世紀にわざわざ見せてくれたゴダール(愛の世紀)にはもっとうんざりしたが(でも水じゃなくて道だったような)、僕らの音楽は割と良かったし、モーツァルトがとんでもなく面白かったからまあどうでも良いや。

しかし、これらの年期の入ったテープって今でもちゃんと見えるのだろうか? いきなり千切れたりワカメになったりするんじゃないだろうか、というわけで持っていても見られないのであった(というかイーノは見たくもないけど)。

本日のツッコミ(全6件) [ツッコミを入れる]
_ はら (2005-10-25 15:11)

僕もシュルツの原作読みました。実は原作のイメージをかなり再現しているのだという事に驚きました。その後の新作って何だろ「ベンヤメンタ学院」じゃないですよね。「学院」も良い。イーノはレコード時代の音楽作品しか知らないなあ。テープ心配です。僕は「大鰐」のテープをバックアップするためにHDDレコーダ買いました。なんて言ってる場合じゃなくてうかうかしてたらartonさんのこの文章自体art魂炸裂じゃないですか!

_ arton (2005-10-25 17:12)

>ベンヤメンタ学院<br>僕、これ見逃しました。そのくらい、ここで書いている「新作」が退屈でした。……がーん、検索したら、大誤爆だとわかってしまいました。<br>それは『海辺にて』という題で、ボカノウスキーという作家の作品(その前の作品が『天使』でこれは良かった)でした。イメージフォーラム配給というところでごっちゃにしてそのまま間違えて覚えていたみたいです。ごめん>クェイ兄弟<br>#おお、テープがもし壊れてしまっていたらはらさんのバックアップを……

_ はら (2005-10-25 17:53)

「天使」は印象深かったです。でも実験映画は人を退屈させることに躊躇なしですよね。「ベンヤメンタ学院」もスゴイですよ。バックアップ完了。安心して下さい。

_ arton (2005-10-25 21:29)

確かに。 >人を退屈させる。<br>でいくと、ベンヤメンタ学院というのは、気が遠くなるほど退屈?

_ はら (2005-10-25 23:23)

あ、ごめんなさい(僕の書き方がへただった)。ベンヤメンタ学院は全然退屈しません。というか退屈する前に気持ちよく眠れるかも。というか集中してみる程自分が起きているのか眠っているのかわからなくなるという、、。是非ごらんになってください。

_ arton (2005-10-26 02:42)

そうします。(と言ってもAmazonには無いので、機会が回ってきたら)


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