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日々の破片

著作一覧

2007-09-09

_ オースティンを読んだ

子供が、読め読めうるさいので、読んだ。

なぜか、オースティン。おもしろかった。

高慢と偏見〈上〉 (岩波文庫)(ジェーン オースティン)

高慢と偏見〈下〉 (岩波文庫)(ジェーン オースティン)

どうも、パイレーツオブカリビアン観て気に入ったキーラナイトレイの映画を見たかったらしいのだが、ほったらかしといたら、妻が昔買ったらしい岩波文庫を読んで、そうとうおもしろかったらしい。

18世紀の終わり(1790年代)に書かれた小説(出版は1810年代らしい)だから、日本では本居宣長とか小林一茶とかの時代だ。まじかよ。いや、馬琴と三馬はいるけど。

以前、嵐が丘の本当の登場人物の年齢がミドルティーンなんでぶっとんだが(これは1847年で、19世紀中頃)、すべて悪いのはハリウッドと英国演劇だ。あの連中が、いっきに年齢を10歳くらいかさあげしたのだった。

嵐が丘 [DVD](リュカ・ベルヴオー)

(ちゃんとミドルティーンっぽい少年少女が激しい愛憎劇を繰り広げる正しい映画)

嵐が丘 [DVD] FRT-007(ローレンス・オリビエ)

(少年ではなく、かろうじて青年、ほとんど中年じゃないのかのヒースクリフで誤ったイメージを植え付ける作品)

有名人ではフランケンシュタインの怪物を書いたシェリー夫人に結局はなることになるメアリゴドウィンがシェリーとくっついたのが16歳、親にばれてヨーロッパへ駆け落ちしたのが17歳、スイスで暇にまかせてフランケンシュタインの怪物を書いたのが19歳なわけだが、別にシェリー夫人というよりメアリーがとびぬけて早熟な不良少女だったわけじゃなくて、そういう時代であったのだ。オースティンが高慢と偏見を書いたのがだいたい21歳のころか。

というわけで、高慢と偏見には、貧乏な紳士(郷氏って感じか)のだいたい15、17、19、21、23の5人の特徴的な娘たちが出てきて、本当のお金持ちの貴族と恋愛する。で、15と17は、兵隊好きで、結局15歳は口ばっかり達者な男(次女も惹かれたりするのだが)と駆け落ちするおまけつき。

プライドと偏見 [DVD](キーラ・ナイトレイ)

(キーラナイトレイは1985年生まれだそうだから、21歳の役にぴったりだな、というわけで無理のない映画化であろうが、ダーシー卿の役者は何歳くらいなのだろうか)

高慢と偏見 [DVD] FRT-186(アン・ラザフォード/メアリー・ボーランド/グリア・ガースン/モーリン・オサリヴァン/ローレンス・オリヴィエ)

(明らかに年齢設定が異常な古典映画)

で、この小説は何がそんなにおもしろいのかというと、主役であり小説世界の観察者の目となる次女(つまりオースティンと同年齢)のシニカルな人物分析と、これまたシニカルな親父と、やはりシニカルなダーシー卿(次女の相手)といった合理主義者たちと、はっきり馬鹿として描かれている母親、三女、四女、五女、隣家の夫婦、ダーシー卿の親戚のメック婦人のような役回りの人(名前忘れた)、愚物という言葉がふさわしい親戚の神父(この男の愚物っぷりの描写たるや鬼気迫る勢い)、好意的に描かれている叔父さん夫婦と長女と隣家の娘、嫌なやつとして描かれている長女の恋の相手の妹達(ただし相手に対してはニュートラル)、といった主観的な書き分けが絶妙なところだ。パーティーの席上で母と四女、五女、三女が馬鹿丸出しで大騒ぎするところの描写っぷりとか、見事の一言に尽きてそれでおしまいになりそうなほどで、頭の悪い人の会話の特徴の出し方とか行動パターンとか、びっくりするくらいに的確。本当に頭が悪そうに読める。

長女の名前が作家と同名のジェーンで、次女が作家と同年齢というあたりから、こうでありたい自分としての長女と、こうである自分といった書き方なのかも。すると幸福な結婚をするのが長女と次女で、しかもそれぞれの相手が異なる性格(長女の相手は社交的で良い人、次女の相手は無愛想だが賢い人、ただしどちらもお金持ち)というのが、一歩ひいて読むと実に小娘小説なのだが、厭味がないはなぜなんだろうか、そのへんの書き方のうまさが才能というものなのかも。絶妙。

それにしても、親父の描写が面白すぎる。美人っぷりにまけて結婚したものの(子供が5人というのは他の登場人物に比べて多いのだが、それはそれぞれ特色ある姉妹を出すための方便で深い意味はないのだろうけど)、妻の頭の悪さにうんざりして、もっぱら賢い次女とだけ会話するだけで普段は書斎にこもってなんか本を読んでたりして。で、次女が結婚してしまったもので、本来出不精なのにしょっちゅう娘夫婦のところに遊びに行くとか。というか次女が長い旅行に出かけていて帰ってくると大喜びするので、次女がははぁ、話が通じる人間が家にいなくてうんざりしてたなと悟るとか。書き方がやたらと好意的でおもしろい。

で、ダーシー卿がお金持ちという点以外では、あまりの無愛想っぷりと社交性のなさにみんなの顰蹙をかいまくり(当然、次女も最初は嫌っている)のが、次女に恋したせいで人間的に成長するとか。

愚物の代表の親戚の神父は、親戚の中で男だというだけで親父が死んだら妻が生きていようがなんだろうが、家督を相続するという当時のイギリスの制度とか(だから頭が悪かろうがなんだろうが、母親や四女、五女の生き方はしょうがなかろうという気にもなってくるのではあるが)、

というところで、小娘小説といえば、11世紀の初頭の1001年には大部分が書かれていたといわれる源氏物語を調べてみる。すると、紫式部がどうも979年頃に生まれたということは、書き始めはやはり20になるかならないかあたりの頃ということになる。藤原道綱母(これまたイギリスの相続制度に劣らずひどい名前だ)が蜻蛉日記を書き始めたのが18歳あたりで10世紀の中頃。現代人だと新井素子のデビューが17歳、近代だと尾崎翠が18歳という感じ(しかしオースティンの系譜はむしろ少女漫画のほうではないかという気もする)。

桃尻語訳 枕草子〈上〉 (河出文庫)(橋本 治)

一方、枕草子は清少納言がだいたい30歳あたりの作品らしいので、ちょっと桃尻語で良いのかという疑問もある。むしろ、高慢と偏見とか、嵐が丘とか、フランケンシュタインの怪物といったイギリスの古典こそ桃尻語訳がふさわしいのではないかとか。

本日のツッコミ(全6件) [ツッコミを入れる]
_ ムムリク (2007-09-09 10:48)

桃尻語訳。まあ、それを爺ちゃんが書いていたってのも微妙ではありますね。<br>多言語に翻訳されたという点で非常に興味深かったのは事実ですね。(本文よりも解説がなかなか良かったのでそれだけでも有益)<br><br>#下巻がなかなかでなかったので、このまま未完で終わるのではと揶揄されてもいましたが、完結してよかったです。

_ arton (2007-09-09 10:57)

>下巻がなかなかでなかったので<br>なんか思いつきプロジェクトで、途中でいやになっちゃたんですかね? 確かに完結してよかったです。<br>>爺ちゃんが書いていた<br>ああいう世界を若々しい驚きの目で見られる年寄りはかっこいいと思います。

_ むらまさ (2007-09-09 23:40)

キーラ・ナイトレイといえば「ベッカムに恋して」という映画がお勧めです。タイトルがややあれ(どれ)ですが、スポ根モノとして傑作ですので、ぜひご覧になってください。

_ arton (2007-09-10 02:19)

おお、どうも。ベッカムに恋して、って予告篇を見た覚えがありますが、インドからイギリスへ留学してきた女の子の話じゃありませんでしたっけ?

_ むらまさ (2007-09-10 09:18)

留学というか、家族みんなでの移民ですね。

_ arton (2007-09-10 18:30)

そうだったんですか。>家族で移民<br>それは納得かも。なんかしょっちゅうインドとイギリスを往復してるのかと思ってました(予告編の印象)。


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