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日々の破片

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2008-05-07

_ ランジェ公爵夫人

今をさかのぼること3日前くらいに、30年ぶりだかそこらぶりで、岩波ホールへ行った。最後に行ったのは多分ベルイマンの沈黙だかなんだかだろう。

いずれにしろ、岩波でやるような映画にはそれほど興味ない、と書いてみるもので、思い出したが、チェンカイコー(ガイグじゃないのかなぁ)の人生は琴の弦も岩波だったような気がしてきた。

いくら、興味がない映画ばかりやっているとはいえ、それでもたまには観たい映画はあるわけで、リヴェットは観ても良いかなぁと、ランジェ公爵夫人に行ったのであった。

それにしても、最初、1階のチケット売り場(窓口が開くより前に着いたのだが)に、おばあさんが10人くらい集まっているので、何か間違えたのかと思った。別に間違えじゃなかったわけだが。

で、会場に入ると、おばあさんとおじいさんでいっぱいだ。これが岩波か。多分、全館客の中で、おれが一番若いんじゃないかというこのびっくり。

という、このうえなく演劇的なシチュエーションの中で、はっきり言うと、それほど大して映画を撮るのがうまいとは言えないが、それでも何かしらのおもしろさはあるリヴェットを観るというのがメタでおもしろい。

それにしても、冒頭1時間くらい、たとえばエフィーブリーストを撮ったファスビンダーならどう料理をするだろうかとか、恋のエチュードを撮ったトリュフォーならどうだろうかとか、類い希なるデプレシャンに任せたいとか、そんなことばかり考えている退屈さ。というか、隣の席のおばあさんが、上品ななりではあるけれど、お風呂に入っていないのではないかと思わざるを得ない状況で、相当きついものがあるが、なにしろほぼ満員だから場所も移れないときたものだ。

ところが、最後の20分に満たないところ。一隻の武装した船がスペインに向かっていた、のあたりからのおもしろさと来たら、びっくりだ。

「村人皆殺しにしてから、誘拐しよう」

「それが簡単だな」

「でもまて。闇のように忍び込んで誰も気づかないうちに攫ってくるほうがかっこいいぞ」

「それはかっこいい」

「賛成」

「おれは皆殺しでさっさとやるべきと思う」

「決をとろう。皆殺しに賛成は? 闇のように攫うのに賛成は?」

すげぇおもしろいじゃないか。

いや、暗い修道院の中を行ったり来たりしているところを観ると、やはりリヴェットはリヴェットで、少しもおもしろくないのだが、台詞のひとつひとつが冴えに冴えている。それが圧倒的におもしろい。

ほら、演技はどうでもよいから、何か喋れ、喋るんだ。

それにしても、映画と演劇は異なるということを知り抜いているはずなのに(そのために12時間の映画を撮ったはずだし)、どうして、こういう映画になるのだろうか? それが不思議で観ているようなものなのだが。

もっともデパルデューの息子は演技がうまいので、ぎりぎりまで時間をもたせるところとかは良い感じなんだが、役者に頼る映画なのだよな。

最後、死体を前に、ちょっと悲しげな顔をしていると、「それは死体だ。足におもりをつけて海へ投げ込めよ」というような台詞から畳み込んで爽やかに終わって、ああ気分良かったが、ふと気づく。

このおもしろさは、どうみたところで、リヴェットじゃない。原作だ。バルザックがすごいんだ。と気づく。台詞がいちいちいかしているのだ。カメラの動きのつまらなさや構図のどうでも良さにだまされていた。と、まるでアントワーヌドワネルのようにバルザックに目覚める。

というわけで、この、アナーキーでモダンで、現実主義な合理主義者の悪党どもの冒険活劇を読まなければならないだろう。

で、三省堂に行ったらなくてがっかり。でも東京堂にあったので購入。

十三人組物語 バルザック「人間喜劇」セレクション(バルザック)

さっそく、最後のあたりを眺めると、案の定、印象的な台詞はバルザックのものだ。

しかし、まだ読み始めていないのであった。

ランジェ公爵夫人 [DVD](ジャンヌ・バリバール)


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