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日々の破片

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2010-08-22

_ ソルト

ソルトを観てアンジェリーナ・ジョリーってとんでもなく優れた女優だな、と思った。

というか、元々トゥームレイダーのアクション女優だという程度の知識しかなくて、子供がソルトに行こうとか言うので観てきたのだが、観ている間は楽しめているのに、だんだん嫌な気分になってきて、観終わった後は虚無感しか残らず、なんて後味が悪い嫌な映画なんだと思う。

どうしてこんなにも不愉快な気分になるのだろうか? と不思議に感じて自問自答。たぶん、あまりにもアメリカの身勝手さに拒否感があるからだろう。あの連中はパナマの大統領やらイラクの大統領やらを誘拐したり殺したり、東京に住んでいる非戦闘員におおげさな焼き討ちをかけてレミングのように隅田川で溺れ殺したり、バグダッドに住んでいる連中うをピンポイントで爆殺したりとかしていることをコロリと忘れた振りをして、どうです我が国はそういうことをやらかさなくて済みましたぞというようなダブルスタンダードを平然と語るからだな、と取りあえず結論してみたものの、どうもそうは割り切れない嫌な感じがしてならない。

家に帰ったら子供がプログラムのシネマグラフィを眺めながら、あれー一本も観たことないやとか言っているので、ふむふむおれも観たことないと思うよとか言いながらのぞきこんだら、あ、観たことある、と思い出した。

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イーストウッドの映画を観たという鮮明な記憶はあっても、女優の名前を全然覚えていなかったのだ。そうか、母親を演じた女優だったのか。

それではたと気づく。この嫌な気分は、主人公の感情に対して相当な共感をしてしまったためだな。

世の中には不愉快な「性格」俳優と呼ばれる人たちがいて、喚いたり怒鳴ったり泣いたりして、それは観ていて不愉快なのだが、というのはそういう極端な演技というものが舞台的な大仰さを生み出すから、映画を観ていたいのに別のものを見せられている気分になるからだ。つまり、舞台と異なり映画の場合は、人物は等身大より遥かな巨大さで提示されているのだから、その大仰な身振りが増幅されてインプットされる。そのために観ていて痛い。これをテレビ版デビルマンの原理と呼ぶ。たとえば、ドミニクサンダとかジャックニコルソン(逆手に取ったシャイニングは良いわけで、このあたりは監督の能力ということになると思う。逆にイージーライダーとかだとピーターフォンダやデニスホッパーがただふらふらしているだけなので、ジャックニコルソンの大仰な演技が実に不快感を誘う)とかいっぱいいる。痛いなぁと観ているわけだから、これっぽっちも共感もなければ感動もない。さっさと別のシーンにしろ、と思うだけだ。

それに対してまったくそうではない人たちがいる。ただ必要があって暴れて、必要があって走る。必要があって飛び跳ねる。最高の例が説教を垂れるシーン以外のジャッキーチェンとかだ。

必要な処理以外の余分なことをほとんどしないことで、逆にごく少量の静的なシーンによって心理を鮮明に表出させ、観ているこちらはストレートに感情を合わせられるのだった。感情のちらりずむというか。だが、それをうまくやるには、表情だけで(大仰さゼロで)演技しなければならないから、難しいのだろうと思う。大声を出させたり涙を流させたらその時点でアウトだから、映画文法としても難しいのだろう。役者と監督とシナリオがうまく組み合わさったときにだけ現れるものだ。

それならば、後味の悪さに納得が行く。というか、其の手の説明的な心理的な描写を抑えて、とにかくアクションを連続させることで物語をうまく組み立てた監督も大した力量だな。(気になって今調べたらパトリオットゲームを作ったのか。あれも感情を抑制してアクションを多くすることで感情をうまく表現していた)

ストーリーはうまくできていて、アクションは派手(3角蹴りみたいな技が多発するけど、あれは映画的にもおもしろい)、役に立たないが変装する必要があるのでいろいろなスタイルを取るのは気が利いている(映画として別人に扮したら観ている人がとまどうだろうから、すぐそれとわかるような変装をさせているのかと思ったら、登場人物がすぐに「彼女がいたぞ」とか指摘するわけで、物語として役に立たない変装らしい)。しかも役者が良いのだから、これは傑作だ(が、実に気が滅入る)。

それにしても冒頭の北朝鮮のシーンで妙な縦の筋があったが、あれは日本オリジナルなのかな?


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