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日々の破片

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2014-11-08

_ チャイナ・ナイン

現在の中国の集団指導体制について解説し、今後30年くらいの中期的政治的傾向を予測した本。実におもしろかった。残念なのはKindle版は2012年時点の版(胡錦濤体制)で、本物の書籍だと2013年か2014年に加筆した習近平体制のものになっているらしい。

河端さんがなんか紹介していたので読んだ。モチベーションとしては天安門事件くらいまでの中国の歴史を知っているが、それ以降のことはほとんど知らんなぁというところ。

本書では現在の中国を次のように規定するところから始まる。

改革開放による資本の蓄積がある程度まで到達したので富の再分配への移行期である(というか、まともな国家であれば社会主義だろうが資本主義だろうがそうする。新自由主義が異常、つまりまともではないだけのことだ)。

現在の中国は改革開放の途中とは言え、あまりに貧富の差がついた。そのため、今後は富の再分配へ比重がかかるはずだし、また、そうでなければならない。

次に政治体制について分析する。改革開放においては、進取が必要であり、柔軟な情勢への対応が必要である。個人指導体制や硬直化しやすい長老支配では問題がある。そのために用意されているのが、中央政治局常務委員会(2012年当時は9人)つまりチャイナ・ナインだ。最高権力はこの9人の派閥の人数比によって決まる。構成人員が奇数である点が重要だ。これにより強い派閥が5名以上を占めて大きなブレが生じないようにする。しかし常に強い派閥が勝つわけでは無い。情勢に応じて寝返りがあったり、フェアなメンバーがいたりするためだ。なお、今は7人に減っている(人数が多い方が調整に時間がかかるからだろう)。また、定年制を導入することで最大2期までしかいられないようにしている。かつ、主席はこのメンバーから選出することになるため、構成者の多数の指示を得られないものが主席について混乱を生じさせることを防ぐ。

まあ、自民党みたいだなぁと読んでいて、ある意味、日本の55年体制(現在の自民党は多様性を相当失ってごみむしのようになっているわけだが)に近いものを感じる。このあたりがアジア的政治の王道なのだろう。

9人のうち、2人は少数民族や辺境などの特殊な観点用のポジションで、残りが真っ向勝負となる。現在の派閥は上海閥(拝金主義)と団派(中国共産主義青年団出身者、なんか民青みたいなものなのか?)で、これを縦糸として、太子党(2代目)とそれ以外という切り分けもある(が、おそらく太子党かどうかはほとんど重要ではない)。

傾向としては上海閥が自由(市場)で、団派が平等(再分配)。

すでにGDPで2位まで上ったこともあり、むしろ国内の階級矛盾が無視できないほどの状況となっているので、今後はますます団派が力を持つだろう(というか、上海閥というのは長期的な派閥とは成りえないと読んでいて考える。それって地方閥+人脈であって政治指向ではないよな。おそらくスマートで金をうまく稼げて子分を集めることができるその時々の大物がこの傾向の役回りを担うのだろう。いずれにしても再分配が行き過ぎると社会の活力が削がれるのでそのときはまたバランスを変えることになるがそれが上海かどうかは別の話だ)。

最後の章は、おまけのようだが、筆者が新京(長春)で経験した地獄について。

日本軍が逃げて日本人も相当逃げたのだが、筆者の父親は薬品の技術者だったため退去を許されなかった。その後、一時的に解放軍の支配下におかれ相当明るい展望を持てたのだが、国民党支配となり事情が暗転する。国民党はカイロ会議でうまいこと認めさせた縄張りを主張したいというただその一点で(つまり現実的な実効支配力などとは無関係に蒋介石の面子のために)新京を支配下に置く。それに対して解放軍は包囲戦を取る。結果的にそれは兵糧攻めなので飢餓が新京を襲う。筆者の弟も餓死する。最終的に筆者の家族は新京からの退去を許される。が、そこで待っていたのはDMZへの留め置きだった。毛沢東の指示によって、新京からの避難民を流入させないようになっていたのだ。新京以上の飢餓がそこにあり、あたり一面を死体が野ざらしとなっている。その後、結局は筆者の家族は共産党支配地域へ迎えられるのだが、そこで父親が天ちゃんと呼ぶのを拒絶して査問にかけられたりとかいろいろあったりしながらも、最終的に日本へ帰還するまでが語られる。(天ちゃんというのは実にくだらないが、なんか徳球(あたりの発案のように思う)のユーモアのような気もしないでもない。いずれにしろ無教養な連中に対する言葉を使った洗脳の解除としては役に立ったのだろうと想像できるけど、教養ある人間にとってはばかばかしい子供だましなので筆者の父親には許せなかったのだろう)

というわけで、筆者は自分と家族が舐めさせられた辛酸が中国人民の解放に向けた過渡期の痛みなのかそうでないのか、中国の今後の進む道を見届けたいという強い思いがあるのだと結ぶ。これには、大局的にものを見る(自分の立場を人類の歴史の中に置いて考えられる)実に立派な人だなと感動せざるを得ない。

チャイナ・ナイン(遠藤 誉)

-富の蓄積期といえば、最初の社会主義国であったソ連のNEPやブハーリンを想起するのだが、蓄積が農業だったところにいろいろな悲劇があったが、それが工業なのは分配期には相当有利だと思える。


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