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日々の破片

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2016-05-14

_ ウィーンフォルクスオーパーのチャルダッシュの女王

子供がチャルダッシュの女王が観たいと言うので、上野にウィーンフォルクスオーパーの来日公演を観に行く。

チャルダッシュの女王は一曲ネトレプコの初期の作品集に入っていて、結構好きだから、まあ良いかと乗り気70%程度で行ってみた。

カールマン:ハイア、山々のふところが(喜歌劇《チャールダーシュ侯爵夫人》から)(Anna Netrebko and Emmanuel Villaume and Prague Philharmonia and Prague Philharmonic Choir)

すると、異様に混んでいる。

しかもすさまじくおもしろい。こんなおもしろい作品だったとはまったく知りもしなかった。オペラとミュージカル全盛期(RKOでアステアが踊った頃からMGMでジーンケリーが暴れたりしていた頃まで)のハリウッド映画の合体版のような素晴らしさだ。というか、ハリウッドはコルンゴルトの例を出すまでも無くどれだけ20世紀のウィーンの舞台芸術から影響を受けたのだろう(ルビッチやサークのようにヨーロッパから逃れてハリウッドで活躍した連中が自分たちのルーツとして持ち込んだというようなこともあるだろうし)。

比較の対象がないから舞台としてはいまひとつ良くわからないが(チャルダッシュの女王を歌ったアンドレアロストは物語通りの小さな妖精みたいに素敵なのだが東京文化会館大ホールには声量が追いついていないような印象は受けた)、作品としては好きな舞台作品トップ5に余裕で入るのは間違いなしだった。

初見の作品だが、指揮(ルドルフビーブル。おれは全く知らないわけだが、どうも客席含めてみんなから実に愛されているらしいのがわかった)と演奏が素晴らしいのは始まるやいなやわかった。しかし前から8番目という良いポジションで観たのだが、音の壁がまっすぐ上に昇って歌手の声を遮るようなホールの造りだと初めて気付いた(序曲が終わって幕の後ろに諸行無常なんだから好き勝手に生きようみたいな所信表明の歌が交互に出てくる個所)。いかに新国立劇場が良い劇場かと今更ながら気付いた。

1幕、ブタペストの階段状の舞台をしつらえたキャバレ。口ひげの背の高いうさんくさいプロモータのようなおっさんのフェリ(アクセル・ヘルリヒ、歌も踊りも堂々たるものだ。そういえばサウンドオブミュージックにも口ひげの背が高いうさんくさいプロモータのおじさんが出てくるが、オーストリアのショービジネス界のステレオタイプなのかな)、その友人の歌って踊る若いイケメンの伯爵(ボニ。マルコ・ディ・サピアという人。芸達者で実に楽しい)とかがからみながら、チャルダッシュの女王ことシルヴァ(ジルファ?)のアメリカ公演の話になる。早朝の出発なので朝までみんなでお別れパーティとなり、ボニはバックダンサーと一緒に踊りまくる。ザッツエンターテインメントだ。

支配人(おれは気付かなかったが、子供は新国立劇場のこうもりで牢番フォッシュを演じた人だと気付いた)が次の歌手が来ると今度はそっちが人気になるぜと歌いながらポスターを張り替えていると遅れて若き侯爵エドウィン登場。シルヴァとエドウィンのきれいな歌(曲の作り方が本当にハリウッドスタイルでしびれる(もちろん逆でハリウッドがこちらを取り入れたのだろう)。ヴァイオリンとチェロ(それともコントラバスかな?)のソロだけになる素晴らしく美しい瞬間があったのはこの曲かな?)。

そこに唯一の厭な奴の役回りの従弟の男爵がやって来る。見事にみんなに嫌われるのだが、ボニは彼からエドウィンに内緒で両親が出したエドウィンと伯爵令嬢シュタージ(ベアーテ・リッター。歌がしびれる)の婚約発表の新聞広告の切り抜きを入手する。それを使って、エドウィンが去った後にシルヴァにアメリカ行きを決意させる。

舞台の作りのうまさに唖然としたまま幕間になる。70分間まったくだれない。

ここでプログラムのあらすじを読んでオチを見てしまう。

2幕。ウィーンの侯爵家の客間ホールの手前におかれた待合室。シュタージとエドウィンが、結婚について話し合っている。エドウィンは軍服を着ている(ってことは皇太子は暗殺されたのだな)。エドウィンはシルヴァからの返事を待っている(ボニの陰謀でシルヴァがエドウィンに裏切られたと感じていることを知らない)し、シュタージは貴族どうしだからしょうがないが、他の女に気を取られているエドウィンと結婚することにはすごく懐疑的。ふたりで、北と南に別れて暮らす歌を歌う(これも叙情的な良いナンバー)。

そこにボニとシルヴァが登場。シルヴァは貴族社会のパーティに潜り混むためにボニの奥さんとして扱うことをボニに強要する。

この幕、ボニは常に揺さぶられることになる。シルヴァは腰掛けるや脚を組んで、はっと気付いて直すというジェスチャーをして、貴族社会と芸能人社会の違いを示す。というのを後刻、侯爵夫人と並んで腰掛けるところで示して、知っている(幕間にあらすじを読んでしまったのでおれは知っていたわけだが)人は笑い、知らない人は仕掛けに感づく(というか、侯爵の家柄に関するセリフと微妙な夫人の受け答えから巧妙にオチを感づかせる仕掛けが仕込まれていて、実におもしろい)。シルヴァはそっくりの歌姫がいるということにしてごまかしまくるが、これはコウモリのアデーレの役回りでもあった。そういうオペレッタおきまりのお笑いパターンなんだろうな。

ボニは久しぶりに会ったシュタージの美しさに心を完全に持って行かれる。一方シュタージもハンガリー(だと思ったらこの人もボニもオーストリア人だった)の若き貴公子(しかも気が利きまくり過ぎる才人)に惹かれまくる。この二人の描き方がまた実にうまい。音楽も踊りも良い(ハンガリー人の兄弟のわけのわからない歌。チャルダッシュって、最初ゆっくりした短調のもの悲しげな調子ではじまり一転して長調の激しい舞踏曲になるから演出がしやすいのかも知れない)。素晴らしい舞台だな、おい。

ついにボニはシュタージに求婚するために、ソフィスティケートしまくったシルヴァとの離婚話を始める。

エドウィンは大喜びで、伯爵夫人との結婚なら家柄の問題はないと言い出す。これには歌姫とのプライドがあるシルヴァが傷つく。両親とうまくやれるはずないじゃんと正論を吐いて大暴れし、貴族たちが居並ぶところで、結婚誓約書を破り捨てて退席する。ボニがうまく丸めながらついていく。

続けざまに3幕。

ブタペストの劇場支配人だった男がホテルのラウンジを片付けているとシルヴァとボニ登場。なんでお前がいるんだ? 栄転だなおい。

シルヴァが落ち込んでボニに、自分の態度をどう思うか聞く。田舎娘みたいだな。

そこにプロモータ登場。どうもブタペストで仕事にあぶれてウィーンをうろついているらしい(素晴らしいご都合主義)。もう一度シルヴァと組んで一旗あげようと、引退表明するシルヴァを乗せようと歌い始める。踊り始める。ついには、3人で歌って踊りまくる無茶苦茶なシーンとなる。面白すぎる。そのあと5回くらいアンコールしたけど、そういう芸なんだろう。このしつこくぶらしまくるアンコールを振るのも演奏するのも難しそうだが、すばらしくうまい。舞台の上にはヴァイオリンとコントラバス、ラッパのソリストがいて、それが歌とうまくからむ。カールマンがどこまで作曲しているのかわからないが、繰り返しをだれさせないように巧妙に仕込んである(フェリの首にシルヴァがぶら下がってぐるぐる回るところとかすさまじい)。最初のアンコールではフェリがバースを英語(途中から英語とわかった)、ルフラン(全員)が日本語でやってみせた。(息が上がりかけているのが客席からわかるくらいだ)

すっかりショウビズに戻るつもりになってシルヴァが退出。

入れ替わりに侯爵夫妻登場。ボニを責める。おかげでシュタージは結婚できなくなったじゃないか。ボニは大喜びでシュタージに電話して結婚の承諾を取り付ける。するとフェリが赤毛のヒルダという歌姫の話を始める。侯爵は最後大笑いしながら夫人に呼びかけながら退場。気持ちの良いけりの付け方だな。

入れ替わりにシュタージ登場。歌と踊り。そこに支配人登場。エドウィンがやってくる。ボニはエドウィンと対峙する。エドウィンを揺すぶろうとして自分が揺れる。シルヴァをなだめることを約束して全員を隠す。

シルヴァがやってくると、支配人にかけさせた電話をエドウィンからのように見せかけて、どうしたんだ顔が真っ青じゃないかとくすぐりを入れながらエドウィンの自殺をシルヴァにほのめかす。エドウィンが出てきてめでたし。

突如セピアがかった空間となり、一度だって多すぎる、人生は一度きりと妙な空疎感を醸して終わる。

多分、男爵もエドウィンも(おそらくボニも)戦死することになるのだろう。

あまりにも良かったので、帰宅して子供が探していたらエレールがボニを歌っている音源を見つけたので購入。

Kalman: Csardasfurstin (Die) (The Csardas Princess)(Harald Serafin)

どう聞いても歌い方がオペラ風なことを除けば、極上のハリウッドミュージカルのサントラだ。


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