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日々の破片

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2016-05-25

_ ロベルト・デヴェリュー(女王三部作おしまい)

東劇のメトライブビューイングでロベルトデヴェリュー。

これで、アンナネトレプコのアンナボレーナ、ディドナートのマリアストゥアルダと来てドニゼッティのエリザベータ女王三部作は全部観たことになる。

エリザベータはソンドラ・ラドヴァノフスキーでおそらく本物の天然痘を意識したおっかないメイク、対するノッティンガム公爵夫人がガランチャでなんか公爵(でっかな領土を持つ王様というか文句なく大名)夫人なのに妙に質素な服で、これが驚くほど似合って美しい(ガランチャはアンナボレーナにも出ていた)。

しかし、不思議なのはなぜドニゼッティはこんな作品を3作も作ったんだろう?

アンナボレーナはヘンリー8世の不愉快っぷりがひどいし、マリアストゥアルダはマリアもエリザベータも人間としてひどいし(マリアが開き直るのはエリザベータが悪いようには見えるが)、ロベルトデヴェリューもノッティンガム公爵の非情っぷりは多少同情の余地はあるにしても、エリザベータのくずっぷりは親父顔負けだし、ロベルトの適当さは不愉快だし観ていてテューダー朝への反感ががんがん湧いてくる(まあ、最後にエリザベータはいきなりジェームズに譲位を宣言したからテューダー朝はこれでおしまいだ)。

テューダー朝はほぼ15世紀全体なので日本でいくと日野富子から大阪夏の陣くらいまでだから、ドニゼッティが3部作を書いた1830年代から250年くらい前、ちょうど曲亭馬琴が八犬伝を書いたのに近いかも知れない。もっとも八犬伝は15世紀が舞台なのは同じだが作家の本国の話だからちょっと違うか。むしろ近松の国性爺合戦(こっちは17世紀が舞台だな)のほうが近いかも。

まとも(カトリックという意味)なヨーロッパの文化人から見て野蛮人の王族の栄枯盛衰話をおもしろおかしく取り上げたと見ることもできるが、一方で、シェークスピアがその頃にいたことは知っているはずだから(ドニゼッティの頃だとまだ周知はされていないかも知れない)、イギリスを単なる野蛮人扱いは無理がありそうだ。でもヴェルディのジョヴァンナ・ダルコですら開始早々、海の向こうから野蛮人が攻めてきた! とカルロが大騒ぎするところで始まるから、ドニゼッティの頃は独自の奇抜な宗教を信じる異常者の群れ程度の認識がまだ残っているかも知れない。とすれば、野蛮人の王族の奇怪な殺し合いをおもしろおかしく描いた見世物気分の作品ということなのかな(しかも歌は素晴らしく美しい)。

マリア・ストゥアルト―悲劇 (岩波文庫 赤 410-6)(シラー/相良 守峯)

マリアストゥアルダの原作はシラーだからロッシーニにヴィルヘルムテルにしろヴェルディの群盗やドンカルロスにしろ、イタリアの大作家のシラー好きとみることもできるが、第1作のアンナボレーナはシラーとは全然関係なさそうだからそれも違うし。

ロベルトはポレンザーニで女王の寵愛を信じ切っている歌がきれいなおっさんで、妻を愛しきっているだけではなく親友としてロベルトの助命嘆願に走りまくるノッティンガム公爵のクヴィエツェンはそれだけに裏切られたと知ったときの酒瓶片手にガランチャにからんでいくところはおっかないというか、真珠取りと同じパターンじゃん。


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