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日々の破片

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2016-06-19

_ ペドロコスタのホースマネー

ユーロスペースに行ったらかってないほど混んでいる。紅いコーリャンかゆきゆきて進軍か、というくらいに混んでいて驚く。フェイクが混んでいるのだった。おもしろいのだろう(このての映画館で始まってから1か月くらいが経過しても異様に混んでいるのは口コミが口コミを呼んだからなのだからおもしろいに相違ない)。

でも、おれはそれとは関係なくペドロコスタのホースマネーを観に来たのだった。こちらも1/3くらいは入っていた。

コロッサルユースポルトガル、ここに誕生すに続くヴェントゥーラの疑似伝記かつポルトガルとカーボヴェルデの近代史もの。

スティール写真が何枚か、部屋の中。暗い長い階段を赤いパンツ一丁のヴェントゥーラが延々と降りて行き鍵のかかった鉄格子の扉を医師風の男が空けて招き入れる。さらに下へ降りる。

どうも、ついにヴェントゥーラは死んでしまったようだ。

突如明るい病室。ヴェントゥーラが横たわっている(髭が少ないヴェントゥーラなので一瞬誰かわからなくなるが、髭が少ないヴェントゥーラが現実のヴェントゥーラ(たぶん死にかけて病室にいる)と髭が多いヴェントゥーラ(時空を漂っている)が入り混じる。

病室に招かれた人たち。子供と妻を寝かしつけたあと家に火を放った男、建築現場の3階から転落した男。どうも癲狂院らしい。いつものおっさんが(この人も赤いシャツのとき以外は良くわからなくなる)紹介する。ヴェントゥーラは家の中のカビだか毎日飲まされている薬のせいだかで手が震えている。震えていないときが時空戦士のときのようでもあり違うようでもあり。

故郷から妻が来る(同僚の妻らしい)。故郷の家のことを聞く。あのあと火が出た。家畜は? ホースマネー(馬の名前)はハゲタカに食い殺された。

というわけで、どうもタイトルは、食い荒らされて忘却の彼方にある失った故郷のことらしい。

妻が延々と結婚証明書などについて白衣を着て読み上げる。腕飾りを外す。

(ここに何かあった)

このときヴェントゥーラはしゃれた服を着ていてそれを指摘される。結婚式の直前か届け出の記憶の再構成か、または単なる妄想だ(というのは、生涯独身であったようなセリフがどこかで呟かれた記憶がある)。

突然、それまでの自然音から変わって音楽が流れる(音の記憶はあるが、シーンの記憶がない)

山狩り。赤いシャツの男が後ろから羽交い絞めにする。

エレベータの中で兵士と会話(ポルトガル、ここに誕生すだ)。

キーキーひっかくような音(エレベータの中で顕著)。

どの時点を切り取っても完璧な構図なことに讃嘆する。常に構図が完全な映画というのは不可能な気がするのだが、ここにはそれがある。

一方、長い対話は言葉がわからなく、抽象的な会話(ポルトガル史を知っていれば何が何だか当てはまるので具象的なのだろうとは思う)が完全な構図の中で延々と続くと集中力を持続させるのが難しい。珍しく2時間を割り込む短さなのだが、それでも完全に集中力を持続させることはできなかった。特にエレベータのシーンは兵士のメークの気持ち悪さ、耐えがたい音響、いつ果てるともない対話が辛い(それでポルトガル、ここに誕生すの記憶がまったく無かったのだなと思い当たる)。しかも構図は完璧で、多分、外部からの視線(つまり映画を観ているおれさま)を映画自身が持つ硬度によって跳ね返してしまい、完膚なきまでに批評的な鑑賞を拒否するからではなかろうか。とんでもない作家だ。

とてつもない傑作なのはどこをどう切り取っても明白(ホログラムのようだ。部分があれば全体は不要で、全体があればさらに見えないところも見える)。

それにしても世界は広い。


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