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日々の破片

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2019-04-24

_ 石川淳の狂風記を読了

通勤時にkindleでちまちま読んでいた狂風記を読了。

最初、あまりの言葉遣いの中途半端な古めかしさにびっくりする。これって80年代の小説なんじゃなかったのか? (読了したら書肆データがファイルの最後にあって、1970年に執筆開始、1980年に上梓とあったので、構想を考えると1960年代後半から70年代前半とするとそれなりに辻褄があうことがわかった)

最初に引っかかったのが「かみなり族」で、おいおいそこは暴走族のほうが近しいし、そもそも徒党を組んでいるわけでもないから、特に名詞を使う必要もなかろう(死語だし)と思った。

記憶の中でのかみなり族は、1968年ごろに、キラー通り(当時の呼び名はまだなかったかも)の神宮前2丁目の交差点を過ぎたあたりの陸橋に「かみなり族追放」という垂れ幕がかかっていたくらいだ。もっともエキゾースト音を轟かせて突っ走るのでかみなり族(オートバイ乗りを族と呼称していた)と呼ばれていたのだから、暴走族とは意味が異なるので、文脈は正しい(登場人物がオートバイの轟音を響かせて猛スピードで突っ走る場面で使っていた)。正しいが、既に死語なので引っかかりまくったのだった。読み進めると、風俗小説の本歌取り、内容は死者の饗宴なのだから、死語上等なのだろう、と思わなくもなかったが、初出時にはえらく引っかかった。

というような調子で、一文一文に味がありまくるので、読むのがおもしろい。

が、やはり古めかしい。特にその後は、ガンとカーという単語に引っかかりまくる。そこは拳銃かピストル、自動車がふさわしいのに、なぜか頑なに(とは言え、数回、車という言葉も出てくる)ガンとカーと書きまくられている。が、これも大藪春彦的な世界を示していると考えれば(実際の大藪春雨物語の文体と用字用語は忘れたが)わからなくもない。

言葉の魔術と言えなくもない。

その分、物語は適当だ。

大筋は、雄略天皇に暗殺されて皇位を簒奪された市辺忍歯皇子(別王)の怨霊が受肉して国を取り戻すことになるが、その周りには江戸時代の井伊直弼の師にして友と、その愛人の生まれ変わりの因縁談(なのだが、愛人のほうは、全然、井伊直弼の師の生まれ変わりと寄りを戻しはせず、皇子についている)に基づくまるで課長(ではなく専務)島耕作と社長秘書の会社乗っ取りについてのビジネス三文小説(当然お色気あり)、江戸川乱歩のパノラマ島の三代目の「余計者」によるガンとカーいじりの中途半端なバイオレンス小説、天井桟敷か紅テント風味のアングラ演劇をポルノ化した風俗小説、全体的には1950年代のカストリ雑誌のエログロ猟奇風味に、パノラマ島的な昭和初年のエログロ猟奇風味を混ぜ合わせてお祭り騒ぎにしたもの、というべらぼうなものだった。ちょっと山の周辺は南米の魔術的レアリズムのような中上健次風のオルタ神話のようでもある。

一言で片づければ怪作だった。

21世紀に読む意味を見つけるのはすごく難しいし(そもそも現代の人には個々の出典を楽しむことすら不可能だろう)、娯楽作品としては元ネタそのもの含めて古色蒼然過ぎる。

が、読んでいる間は圧倒的なわけのわからない迫力でおもしろかった。わりと良い読書経験だったな。

狂風記 上 (集英社文庫)(石川淳)

狂風記 下 (集英社文庫)(石川淳)


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