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日々の破片

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2020-06-14

_ ヴィルヘルム・テル

2017年に復刻されたときに買っておいたヴィルヘルム・テルを読んだ。

やはりシラーは最高だが、まっしぐらな群盗と違って意外と複合的で最晩年(といっても45歳で若死にしているので、最晩年と呼んで良いかは微妙)の作品だけに勝手が異なる点もあった。とにかく登場人物がやたらと多くて、最初、見開き2ページ2段に及ぶ登場人物一覧を眺めてびびったが、要は群集劇(スイスの3つの村からそれぞれ10人集まって集会を開いたり)なので登場人物が多いというだけだった。

というわけで、読んでいてやたらとカムイ伝(第1部)を思わざるを得ない。

表題こそカムイだが、草加竜之進のように最初は長いものに巻かれる国王主義者、しかし恋のために自由に目覚める青年男爵ウルリフィ・フォン・ルーデンツ、竹間沢村の庄屋のように自らは名字帯刀を許されてはいるが村の発展と自治、村人の尊厳のためには生命を賭けることも辞さないシュヴィーツ州の富農ヴェルナーシュタウファッハー、苔丸のように不屈の農民であるウンターヴァルデン州のメルヒタールのアルノルトなどの活躍が目立つ目立つ。

超有名な息子の頭の林檎を射るところなど、読んでびっくり、ルーデンツと悪代官ゲスラー(当然カムイ伝では錦の役回りだし、錦同様に冷酷無残な政策は主君のためと割り切っている)が論争しているうちに、歓声が上がりテルはいつのまにか矢を射たとわかる始末だ。

というか、カムイ伝を書くにあたって白土三平はヴィルヘルム・テルの影響を相当受けているのではなかろうか?

カムイ伝全集 第一部(1) (ビッグコミックススペシャル)(白土三平)

なんといってもかっこよいのは、ヴェルナー・アッティングハウゼン男爵(スイス自治州の殿様相当)で、統一! と叫びながら3州の農民、漁民、牧民たちに看取られながら死んでいくのはかっこよすぎる(最初の時点では3州の人民は貴族の後援は不要だと、男爵を無視している(が、塁が及ぶのを避けさせるための深慮遠謀とも読めなくもない)のだが)。

舞台はスイス、湖では漁童、牧草地で牧童、山で猟童が歌をうたっている。ここの3州は神聖ローマ皇帝から必要とあれば帝国のために武力を提供する代わりに自治を認められている。しかしオーストリー国王(ここは歴史を知っているシラーはわかっているからだろうが書き方が自由過ぎて、スイスの歴史をろくに知らずに読んでいるこちらにはオーストリー国王と神聖ローマ帝国皇帝がいて時々皇帝のことを王と呼んでいるのか(2人いるのか)それとも同じ人物なのかさっぱりわからない。おそらく皇帝はオーストリー国王でもあるのではなかろうか?)は支配権を強めだし送り込んだゲスラーはじめとする代官たちは暴虐と圧制を布いている。

ついに、あまりのひどさに爆発したウンターヴァルデン州の樵民のコンラート・バウムガルテンは代官の部下を斧で叩き斬って逃げてくる。シュヴィーツ州(ゲスラーはシュヴィーツ州とウーリー州の代官なので、管轄違いのウンターヴァルデン州代官からは逃げられるということらしい)へ湖を渡ろうとするが、漁師は時化を理由に断る。しかし追手が迫る。

そこに現れるのは快男児ヴィルヘルム・テルだ。

本職の漁師がびびる荒れ狂う湖に漕ぎ出し無事バウムガルテンを逃がすことに成功する。

シュヴィーツ州では長者のヴェルナー・シュタウファッハーが新築の家をゲスラーが目をつけて嫌がらせをするのに耐えかねている。この男、旅人をもてなし、地域に貢献するので、立派な家が必要なのだが、その立派さがゲスラーには気に食わないのだ。

そこにバウムガルテンの保護を依頼しにテルが来る。

この男ならと、シュタウファッハーが一揆の相談をそれとなく持ち掛ける。

しかしテルは、「強い者はひとりでいる時が一番強いんです。……いよいよ実行ときまって、おれが必要となったら、このテルをよび出してください。のけ者にしてはいけません」と言って去って行く。

とかっこよく去って、しばらくテルは舞台には出てこない。

一揆の腹を括ったシュタウファッハーはウーリー州の顔役、ヴァルター・フュルストを訪ねて行く。ヴァルターはテルの義理の父親でもある。そこに、ウンターヴァルデン州から逃げてきたメルヒタールのアルノルト(というか、最初のバウムガルテンもそうだが、ゲスラーよりもウンターヴァルテン州のほうが質が低いよな)も加わって、3州合同の一揆の相談を深い森の中の広場で真夜中に行うことを決定する。

牧師(神父じゃないのか? と最初思ったが、プロテスタントなんだな)が王党派の立場から発言しながら(本心は全然一揆側なのだが、どうして反王となるのかの言質を会議として取るためで、おお民主主義だとなかなか感動的なシーンで、あとがきでもこのあたりをクライマックスとしているが、確かにその通りだ)全員の意志を確認していく。

「夜中であってもわれわれの権利は輝いています。」

「もうどんな道でもききめがなくなると、最後の手段として剣が与えられているのです。」

「われわれは祖先のように自由でありたい、

奴隷となって生きるよりは、むしろ死を欲する。

われわれは最高の神に信頼しよう、

そして人間の権力などをおそれまい。」

かくしてクリスマスの砦への物資搬入時に攻撃を開始することを決定し散会となる。

結局、クリスマスの反乱は、ルーデンツが恋するベルタ・フォン・ブルネック(スイスの貴族なので反ゲスラー派で、彼女に一喝されてルーデンツは祖国派に鞍替えしている)がゲスラーにとらわれたため、救出の必要から早回しされる一方、林檎の復讐に踏み切ったテルのテロル(誰にも諮らずたった一人でゲスラーを暗殺するのだから、テロルとしか言いようがない)によってゲスラーが暗殺されるのがほぼ同時、しかも時を同じくして全く3州の反乱と無関係に神聖ローマ皇帝の暗殺が起きたため(最終幕での逃亡中の暗殺者とテルの問答は、ただし、相当、気分が悪いものだが、それでもテルは暗殺者に便宜を図る)代官たちの砦や城を破壊し、実力行使で3州の自治はうやむやのうちに認められることになり、ルーデンツの「それでは私もすべての農僕の自由を宣言します」で幕となる。

ヴィルヘルム・テル (岩波文庫 赤 410-3)(シラー)


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