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日々の破片

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2020-07-12

_ ミクロイドS ― 手塚治虫版デビルマン

ちょっと思い出したのでミクロイドSを読み返して、えらくおもしろくて感心する一方で、なんかデビルマンに似ているなぁと思った。

ミクロイドSは、人類の別進化系統のミクロイド(身長は3cmくらいで、言語ではなく思考で会話する。この設定のおかげで、アメリカでも日本でも人類と意思疎通が可能)と、ミクロイドを家畜として使役するギドロンという蟻の進化した生物が生息しているアリゾナ砂漠の地下のギドロン帝国での反乱軍の処刑とその処刑場へのミクロイド反乱者の攻撃から始まる。

ギドロンは世界中の昆虫から得た情報(公害であったり自然破壊であったり)から昆虫の生存を賭けて人類の殲滅を決意する。そのために人類の行動パターンを本能的に理解できるミクロイドを人類世界に送り込み、現地で調達した昆虫軍を使うことを計画する。

同じ人類の眷族(哺乳類仲間)としてギドロンの計画を許すことができないミクロイドの有志が反乱を起こし、そのうち、3人がギドロン帝国からの脱出に成功してニューヨークの国連ビルを目指す。のだが、小人の見世物として売られそうになったり、一笑にふされたりして相手にされない。そうこうするうちにギドロンが派遣した人類殲滅隊に見つかり、隠れた旅行鞄が向かうままに日本へ到着する。

ここで人類側の主人公の美土路学が登場。勉強はできないが剣道の腕前がある中学生で、父親は昆虫学者という設定で、なぜか意地の悪い教師が後のドンドラキュラになるノラキュラ先生で、多少のギャグパートの役割も果たすことになる。

紆余曲折の末、ミクロイドは美土路博士にギドロンの計画を告げることに成功する。学者だけに、目の前で3cmの人類が思考を使って会話するうえに、ギドロンの計画もそれなりに筋が通っているので信じることにする。偉い先生なので政治家やテレビで訴えるのだが、ついに頭がおかしくなったのだなと扱われる。

そこに昆虫の大群によるギドロンの第一次攻撃発生。

人々は、この事態を予想していた美土路博士こそが真犯人と考えて、リンチにかける。

壮大な話なのだが、3人のうちの1人のアゲハと、ミクロイド側の主役のヤンマー(トンボっぽい)の兄貴のジガー(ジガバチ?)が婚約していて、兄貴はヤンマーに嫉妬していて、ヤンマーは彼女をスパイと疑っていて、といった細かい話をうまく組み合わせてクライマックスへ突き進む。

手塚治虫だし、発表誌が少年チャンピオン(当時のマガジンやサンデーが全共闘世代の雑誌として大学生に向いてしまったのに対して、小学生路線を堅持)なので、最終的な破局は避けられる(したがってアンチハッピーエンドではない)。が、ハッピーエンドでもない。

この、美土路博士に対する市民の攻撃、人類と別の場所で進んできた別系統の種による人類滅亡作戦という設定がどうにもおれにはデビルマンに似ているように感じたわけなのだった。もちろんドラマ構成などは全然違うし、ミクロイドSはいかにも手塚治虫な感じの子供に対する優しい目配りと全体としての人類に対する嫌悪感が溢れていて、そこが永井豪のすべてはエンターテインメントのような割り切りは無いので、全然真似というわけではない。

とはいえミクロイドSは1973年の作品で、デビルマンは1972年から1973年の作品なので、まったく無関係というわけにはいかないだろう。

一番重要な共通点は、1972年の連合赤軍後(以降、大きな大衆運動としての新左翼運動は消滅して、各派、内ゲバの時代となる)だということ、光化学スモッグやヘドロなどの公害が蔓延し始めたこと、要は1970年代初頭の時代感に満ちているということだ。

・手塚治虫の作品では海のトリトン(というよりも青いトリトンが1969年の連載開始時には海の男の根性ものだったのが、1972年の終了時には反公害のために人類と敵対せざるを得ない海に暮らす別系統の人類の物語となっているが、その延長線上にあるとも言える。

・おれには、この1969~1973年あたりの手塚治虫の作品が一番おもしろく感じる。もっともリアルタイムにおもしろく感じて読んだ感触が残っているからかも知れない。

・手塚治虫のテレビ主導(1話完結で、回ごとに怪物対主役のバトル)のマンガ作品は、ミクロイドSもサンダーマスクも、実際のところえらい傑作になるのがおもしろい(意味わからない5人の刺客が出て来てカブトムシ以外は瞬殺されるのは、多分、アニメ連動の玩具のためなんじゃないかなぁ。今読むと余りの意味のなさに不可解だ。ちなみにあまりに学がバカなので全く理解されないままにたった一人で昆虫軍団の攻撃から眠りこけている学を守って死んでいくカブトムシが良い味出し過ぎている。ちょっとゴンギツネが入っているような感じだ)。後年、特にタクシードライバーの漫画で顕著だが、一定の枠組みを与えられてその中でドラマを動かすのがうまい作家だったのかなぁとか考える。

ミクロイドS 1(手塚治虫)

・ふと気づいたが、ヤンマー、アゲハ、マメゾー(仮面の忍者赤影の青影役だ)の3人のバランスの一般性(女性のアゲハは肉体的に足を引っ張る役回りだったり)に比べて、手塚オリジナルのワンダー3のウサギ(リーダー)、カモ(ホワイトベースのカイみたいな感じもあるが、知的だが皮肉屋)、ウマ(技術者)って、タツノコっぽい組み合わせだ。ミクロイドSの比較的ステロタイプな3人組は、アニメの設定由来なんだろうなぁ(もっともアゲハは最初は足を引っ張る役回りだが、途中から無茶苦茶強くなる)。


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