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日々の破片

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2020-07-31

_ ジョニーは戦場へ行った

妻が図書館でジョニーは戦場へ行ったを借りてきたので一緒に観る。

戦場で爆弾(地雷と覚え違えていた)で手足と顔面を吹き飛ばされて芋虫状態で軍の病院に隔離された兵士の映画だ。作家はダルトントランボで、赤狩りで追放された作家の一人でもある。

なぜか忘れたが妻がジョニーは戦場へ行ったについて話たので、最後看護婦さんに殺してもらうんだよね? と言ったら、そうじゃないと書いてあったけどと言い返すので、はてまったく記憶にないぞと気づいたのだった。ベッドに寝たきりのを窒息させて殺すのは、よくよく考えたらベティ・ブルーだった。

確か、中学生の頃、名画座で観たのは間違いないのだが、驚くほど記憶になく、見返したら理由はわからないでもなかった。優れた脚本家ではあるのだろうが、必ずしも優れた映画作家ではないのだ。したがって、シーンに印象が無い。

始まるとクレジットの上に第一次世界大戦での出兵の様子がおそらく当時のニュース映像か何かを使って映される。ここでも記憶が間違っていたことを知り、ジョニーはベトナムへ行ったのだとばかり思っていたのだが、実際は欧州へ行ったのだった。したがって、当時のニュース映像からシームレスに物語が始まる。

本能的に急所を守るために体を折り曲げていたために助かったのだろうが、脳に損傷があるから実験用にしようと軍医が話す。しばらくして倉庫に隔離された負傷兵の物語が始まる。

基本は白黒の現在のモノローグ(最初はサクレクールあたりの病院で、1年以上経過した後も同じ病院のようだ。サクレクールという名前は仮に歴史的な事実だとしても意図的だろう)とカラーによる過去の回想と夢で、徐々に回想が減り夢が多くなる。思い出すことの残りが乏しくなることを示している可能性はある。

モノローグによって、抜糸のたびに、腕の切断を追体験し、脚の切断を追体験し、歯がないことを確認しようとして舌がないことを知り、ただ穴があることを自覚するところはモノローグの強さだ。ジョニーは見ること聞くことはできないが、人が入ってきたときの振動を感じることはできるので、それによって少しずつ事情を飲み込んでいく。

観ていてオルドリッチやロージーのような同時代人の赤仕草というか、何か別の意味を持つのだが、はっきりどころかほのめかしもせずに了解を求めるという作法が強い。オルドリッチやロージーはそれを無視しても問題ないほどのエンターテインメント性があるのだが、ダルトン・トランボにはそこまでの力量はないと感じる。しかし脚本、この場合は主として台詞回しということになるのだが、は抜群だ。

最初の回想では恋人、婚約者、妻か微妙ではある女性との最後の夜、その直前の女性の父親とのやり取り、そして出征時の駅での別れとなる。別れ際、二人は抱き合うのだが、女性側に促されて腕を回す。

父親の死に立ち会い、釣り竿について謝る。

子供時代、父親が釣り竿の手入れをしているのを眺めている。中国製の漆を塗る。おれの周りはすべて小さい。おれも家も畑もお前も、すべて小さく何一つ自慢にはならない。でもこの釣り竿だけは違うんだ。この釣り竿がおれの唯一の誇りだ。最後父親はジョニーを抱擁し、腕を回してくれと言うがジョニーは拒否する。

現実世界では医者の指示を守っている看護婦が薄暗い部屋でジョニーを看護しているところに婦長がやってきて、これはありえないと窓を開ける。ジョニーは額に熱を感じて嬉しくなる。

ジョニーは友人と父親の3人でキャンプへ行く。父親に友人が持ってこなかったので釣り竿を貸してくれと頼む。父親は目を見て、お前がおれのを使い、お前のを貸すのなら良いと言って貸してくれる。

カヌーで急流を進むと、あっと言って釣り竿が河へ落ちる。

父親に失くしたことを報告する。探し回ったけど見つからなかった(嘘かも知れないし、上のシーンの後に実際に探したのかも知れない)。

父親は、たかが釣り竿だ、と言って許す。

回想が次はパリで買った英語を話す娼婦(アメリカから流れてきたらしく子供はブルックリンの寄宿舎にいて、そのためにも稼ぐ必要がある)に進む。ジョニーは何もせずに眠ってしまう。

看護婦が変わり、ベッドをより窓際へ移す。

(この時点か、それとも婦長が窓を開けさせたときか既に記憶にないが、これによってジョニーは1日の経過を認識できるようになり1年以上が過ぎたことを把握できる。頭の中に表を作って消しこみ法で週、月、年を記録していく)

彼女は同情から涙を流す。その涙が胸に落ちたので不思議なものとしてジョニーは認識する。

ジョニーは爆弾にやられた日を回想する。司令官が前線に視察に来る。伍長に悪臭について尋ねる。ドイツ兵が有刺鉄線に引っかかって腐敗しているのだ。司令官は弔うように命令する。敵兵であっても死者には敬意を払うべきだ。

夜、伍長が死体の回収と埋葬を行う志願兵を求めるが、誰もやりたがらないことはわかっているので適当に指名する。ジョニーも選ばれる。敵兵を穴に埋めようとしたところでドイツ側の攻撃が始まる。ジョニーは塹壕へ逃げるが爆弾が落ちてくる。

後日、看護婦はバラを1輪コップに差す。もちろんジョニーには何が起きたかはわからない。このシーンでコップがアップになって切り替わる。

少なくとも、ジョニーは自分に好意的な看護婦が担当になったことを理解する。

一方、夢の世界では父親が見てきたサーカスの口上を真似することを思い出し、そのまま自分が見世物になることを考える。恋人は去っていく。このシーンでは色使い、砂、カーニバルの馬車というか移動式小屋といい、すさまじくステレオタイプなサーカスの幻影になるのだが、ステレオタイプの原型の1つなのかも知れない。

クリスマスの夜、看護婦が胸にMerry Christmasと書くのをジョニーは認識し、今日がクリスマスだとわかる。これで、日付がわかるようになったと喜ぶ。

夢の中で父親から頭を使えと教えられる。

頭を使ってモールス信号を送る。最初の医者が残したすべての運動は単なる痙攣だから鎮静剤を射てという指示によってやめさせられる。

しかしこの病院の司令官の視察時にはモールス信号だと気づいた看護婦か担当医によって通信兵が同行している。

意思の疎通が取れることが確認される。

最初の診断をくだした軍医は司令官によって退場させられる。

司令官はジョニーに何ができるかを尋ねる。それに対して、サーカスの見世物にしてくれ、さもなければ殺せ、と答える。

司令官はカーテンを閉めることを指示して去る。

看護婦は神に赦しを乞いてから気道へ空気を送る管を遮蔽する。ジョニーはそれに気づき感謝する。

そこに司令官が戻り、元に戻させる(この後の司令官の行動をどう読むかで物語はまったく異なるものに変わるだろう)。

ジョニーは取り残されてSOSを発し続ける。

ジョニーは戦場へ行った [DVD](ティモシー・ボトムズ)

出口なしの閉塞状況で終わっているように見えるがそうではないのではないか? と思った。司令官が看護婦に管のスイッチを戻させる(のではなく本人が戻したような)のに、高圧性もないし怒りもない。いずれにしても、赤仕草は異なる時代から読み解くのは簡単ではない。おそらく、最も素直に読めば、敵兵を埋葬するように指示したように、自らは手を下すことなく命令する司令官と重ねていてるのかも知れない。であれば、殺すことは悪であり、単に暗い部屋に生きたまま敬意をもって埋葬すると読むのが筋かも知れない。その場合、看護婦はジョニーに重なるのだろう。しかし状況は戦中ではないので異なる結末があるかも知れない。しかしベトナム戦争中ではある。意味は徹底的に多層化されている。

パラサイトのラストに通じるものがある。


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