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日々の破片

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2020-09-22

_ ヴィタリナ(まずはパンタ)

ユーロスペースでヴィタリア。特に連休最後の日程度のつもりで選んだのだが、火曜日だということで1200円ですごくラッキーである。

で、18:30くらいに着いたら、パンタの歌声がする。1階の喫茶店のBGM? それにしてはなぜパンタ? と不思議に思うのだが、どうもおれが知っている万物流転(だと思う)とは違う。

〈COLEZO!〉1972-1991(頭脳警察)

日清パワーステーションでのライブ風というか、妙にアコースティック感がある。

それにしても良い声だし、ずらずらと言葉が流れて行く詩がとても良い(マーラーズパーティで特に顕著だが、パンタの延々と言葉が言葉を生み出して流れていく詩作スタイルはいつも好きだ)。

で、一体どこから流れてくるのかな? と店を(全面ガラスなので店内が見えるのだ)覗いたら、パンタが歌っていて仰天した。白髪バンダナ(かな)が真ん中に座ってギター(だと思ったらベースだったらしい)を弾きながら歌っている。

爺になったな! でもすごく良い。

爺になっても歌っているというと、おれの記憶の中ではLive! オデッセイの最終話が最初に出てくる。

マネージャー(ドラマーでもある)が回想する。オデッセイの音楽指向がどんどん過激化してヒットは過去のものになり、バンドは解散する。それでもオデッセイはギター一本持ってツアーをしていて、ド田舎のライブハウスで歌っている。

Live!オデッセイ(DX版) 2 (アクションコミックス)(狩撫 麻礼)

それにしてもこんなに良いのに客が誰もいないのはなぜだ? と店内を見ながら不思議になりきょろきょろすると、入り口に20:00からPANTA&NANBAとか書いたポスターが貼ってある。まだ20:00どころではないから、リハーサルやっているのか、と思った。なんとラッキーなことだろう。

そういわれてみれば、おっさんが何人か映画館のほうに行かずに入り口付近に突っ立っているが、入場待ちなのか。

でも時間だ。で、映画館へ進む。

_ ヴィタリナ

で、映画が始まる。

暗い道を黒人の集団が歩いている。両脇を抱えられた男。道に置かれる。

スラムの歪んだスティールドアを音をたてながら開ける。

正方形に近いビスタサイズ(ビスタサイズって何だろう? 横広のもあるけど、印象的なのは泥棒貴族の上下移動だったり、大体において正方形に近い)の周辺は真っ黒で真ん中に異様に彩度を上げた(というよりも照明によって、原色が浮かび上がるように撮影しているのだろう)画が浮かび上がる。

信じられない映像の連続で困惑する。

どう見ても最悪な不潔な薄暗いじめじめした臭気漂うスラムのごちゃごちゃした路地であったり部屋であったりするはずが、異様にスタイリッシュで美しい。おしゃれですらある。勘違いして住みに行く人が出て来てもおかしくない。

各シーンは数分以上あるのではないか。とにかく構図、色彩配置、すべてが完璧なのでただただ観ているしかない。常にざわざわ人の話し声やテレビの音声(だと思う)が聞こえる。スラムの密集度だ。

ここまで構図と色彩が完璧な映画は他にはゴダールのパッションしか知らないし、ゴダールでもパッションだけが突出しているのだから、唯一無二ではないか。

パッション デジタルニューマスター版 [DVD](イザベル・ユペール)

どうも最初の両脇を抱えられていた男は死んだようだ。すべてを墓に持って行ったという会話がなされる。金はないのだろう。

それにしても、全然、どういう話かわからん(事前の情報はペドロコスタという6文字以外は持たずに観に行った)。

突如轟音が響く。この後何度か突如音響が変わると、それが時間であったり場所であったりの大きな転換を示すことになることに気付くが、この時点ではまだわからん。

暗い画面の中に金属の大きなものがわかり、飛行機に向けてタラップを移動するところとわかる。

飛行機のドアが開き、大柄な女性が立ちはだかる。裸足で、汗か雨か水が脚をつたう。

ヴィタリナだ。

タイトルが流れる。

空港作業員の集団(としか思えぬ服装と装備)が下から見上げる。

ヴィタリナが降り立つ。

ヴィタリナか? 間に合わなかった。葬儀は終わった。家は借家で何もない。帰ったほうが良い。

30年、リスボン行きのチケットを待っていた(一体何歳だ? と思うが12歳で結婚して42歳という感じかなぁ)。

あれ? お迎えの人たちだったのか。

ヴィタリナは亡き夫が住んでいた家に入る。

扉の上の鴨井の部分に頭をぶつける。小さい家なのだろう。

机の上に2枚の写真の前に2本の蝋燭、真ん中に磔刑像。

白いターバンを巻く。

次に映るときは、この白が実に美しい。

黒いターバンを巻く。

物語は夫の死の謎を探るミステリー風味を帯びてくる。

最初に出てきた男が入って来て、病死だと告げる。うめき声が聞こえる。入ると部屋中すごい嘔吐だ。おれが体を拭いてやった。

失業中の男とその妻(ほとんど食べずに具合が悪そうだ)に食事を振舞う。故郷の料理だな、おふくろの料理を思い出す。失業中なので駅で寝ている。

神父がいる。ヴィタリナが入ると、ミサは上げない。祈りもない。帰れ。

どこまで本当かわからないが、故郷に神父がいたころの話になる。交通事故で何十人ものはらわたが飛び散っているところで皆は祈って欲しいのにお前はそれをしなかった。

このあたりから故郷の家(牝牛を2頭(時間はおいて)潰して得た金で資材を買い、レンガ職人の夫がレンガを焼き、2人で建てた大通に面した10部屋ある家で、畑も当然ある)と、リスボンのスラムが交錯し、複数の事実とされるものが混合されてくる。

告解する。

夫はあるとき何も言わずにポルトガルへ出稼ぎに行く。当時ヴィタリナは妊娠していた。

その後夫はフランスへ渡ったり好き勝手に振舞う。

そして死んだ。

別のヴィタリナと同棲していてその女が金を持ち逃げしたという話をヴィタリナは神父にする。鞄から写真が出てきたと言う。

神父は1週間前に挙げた結婚式の話をする。

ヴィタリナは家の壁にぶら下げられた鞄を順番に調べて行く。自分が送った手紙が無いと怒り出すが、最後に出てきた手紙を熟読しているが何が書いてある誰からの手紙かは明かされない。

失業中の男は職を得たらしく大きな手押し車いっぱいの荷物を運んでいる。

妻は3日前に死んだ。

夫は金を貯めこんでいて、それを知った隣人に殺されて金は奪われたのかな? と思わせなくもない。

常にテレビや会話や雑音がする。

スラムの中で神経が参って行くのだ。

突然、画面に光があたり、墓場になる。墓番号1988が夫を埋めた場所らしい。神父が極端に手を振るわせて聖書を取り落とす。アル中だということをこれでもかと強調しまくる。このあたりは、墓番号が無造作に並んでいて墓碑のある墓がない。ペドロ・コスタの処女作の血が1989年だから1988には何か大きな意味があるのかな。(最初、死者の生年かと思ったが、それにしては没年がないので墓所番号だろう)

立派な墓標がある場所へ移動。完全なまでな光の下になる。

少し色あせた映像で家を作る二人が映る。屋根の上に女、屋根材を肩に乗せて男が屋根へ上る。男がキスをしようとすると、女が何やってんのよとばかりに追い払う。微笑ましい。

おしまい。

とにかく色彩、構図、音響が完璧で一部の隙もない。2時間越えの映画とは思わなかった。

神父はコロッサルユース以降の常連のヴェントーラ。絵になる役者だが、なにものなんだろう?

コロッサル・ユース [DVD](ヴェントゥーラ)


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