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日々の破片

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2021-01-12

_ 「みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史」読了。モノリスからマイクロサービス

年末にKindleセールしていたので買った「みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史」を読了。

おもしろいが、きついなぁ。

おもしろさは4点ある。

・内容そのもの

大規模システムの障害とそれに対する対応の記事としておもしろい。

・構成

日経BP社は日経関係なのだからみずほや富士通やIBMや日立、沖と不仲になるのは絶対的にまずいはず。

そのため、バンザイ! → こんなことあったらそりゃ障害起きるよね、良く頑張った! → バカ? という3部構成になっている。なぜ時系列にしなかったのかと考えると、これしか理由がない。し、それを別にしてもうまくまとまっている(極論すると最初のバンザイパートだけで十分におもしろい)

・システムアーキテクチャ

モノリシックな3つの(実際には4以上の)塊があり、それをオーケストレーションするアーキテクチャで失敗し(特にモノリシックで行くと決めたのであれば、絶対的に個々のモノリスが外部インターフェイスを保持すべきなのにそれを外してしまうのはアーキテクチャ的に異常だが、もちろん接続コストを考えればその選択をした理由についての理解は可能)、最終的にはSOAできれいなオーケストレーションができるようになるというのは美しい。とはいえ、絶対個々のノードは美しくないと思うが。

・DFD

そもそもとしてDFDが無かったということが信じがたいが(だって、IBM、富士通、日立の世界なんだけど)、このタイプのシステムではDFDが最重要というのはわかる。

長いこと、金融ではないまでもある程度の大規模トランザクション、長大データフロー、バッチ更新などのシステムを見てきたので、とんでもなく大変だったことはわかる。夜明けに近づいてもバッチが完了しない状況の恐怖だの、トランザクションが糞づまってシステムが止まってしまう恐怖だの、実に切実感がある。(という生々しさを第一部、それに対して社内政治と国内産業的な政治が中心となる第3部という書物としての構成のうまさには舌を巻く)

みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史 史上最大のITプロジェクト「3度目の正直」(日経コンピュータ)

で、SOAという言葉から思い出したが、マイクロサービスだ。

SOAとマイクロサービスという言葉の違いは巨視的にはそれほどはなく、主に各サービスの粒度によるのではないかと思う(メインフレーマ対サービスプロバイダというような作り手の違いのほうが大きそうだ)。

マイクロサービスのほうが粗粒度で、各サービス単位に異なるデータベースを持つくらいの勢いだ。SOAだと同一のデータベースに接続されたサービスも十分にあり得るだろう。

いずれにしても一番の問題はトランザクションの一貫性と、エラー時の補償(または抹消)で、オライリーからもらった「モノリスからマイクロサービスへ ―モノリスを進化させる実践移行ガイド」にはそのあたりについても結構細かく書いてあって感心した(それはそれとして、みずほのシステムはモノリスからマイクロサービスへのレベルでは作れないだろうとは考えてしまうわけだが)。なんとなく、このあたりの問題についてサービスプロバイダーは正しく考えていないのではないかと思っていたからだ(PayPay障害とかそういうのが念頭にあった)。

モノリスからマイクロサービスへ ―モノリスを進化させる実践移行ガイド(Sam Newman)

_ みずほのシステムと住信SBIのシステム

いろいろ理由があって、みずほ銀行(第一勧業銀行の時代から使っているからなぁ)、住信SBI、SONY銀行を使っている。

で、結構重要なのは、どのATMを利用して金を引き出せるかと、どれだけ安く他行振り込みができるかなのだ。

こういったものは、顧客のロイヤリティのレベル(カタカナで書くと意味がわからないが、要はどれだけその企業に対して忠実な顧客であるかということだ)に応じて無料の回数などが決まる。

で、なかなか興味深いのは、預けている金額についてのレベル分類だ。

この中では圧倒的にみずほ銀行が良い(サービスそのものについてではない。何しろ無料で利用できるATMはEネット(なぜか? と思ったらもともと息がかかっているからだと苦闘の19年史を読んでいてわかった)とイオン銀行しかないから、使い勝手の悪さは最悪だ)。ここでの良し悪しは預けている資産についての扱いについてだ。

SONY銀行の仕組みでは、預金と投信が対象となる。SONY銀行自体が投信を扱っているから当然だ。

みずほ銀行の場合は、預金と投信(これまたみずほ銀行自身が投信を扱っているから当然)と、加えてみずほ証券へ預けている資産が対象となる。

で、一番だめなのは住信SBIで、銀行と証券が別建てになっている。証券との共有口座に預けた現金は対象となるが、一度証券側の資産(投信や株)になると勘定外となってしまうからだ。

という具合にロイヤリティプログラムでの保有資産に対する扱いは最もみずほが高度だ。

不思議なのは、なぜ、みずほができて、よりネット証券、ネット銀行風味が強い住信SBIができないのか?だ。

で、銀行と証券の仲が悪いのかなぁと思っていたが、これ、要は苦闘の19年でみずほ証券も含んだシステムをみずほは構築したから提供できるサービスなのではないか? と気づいた。


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