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日々の破片

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2021-01-30

_ 東京芸術劇場でパレード

なんか東急の割引サービスを受けられたのでパレードを観に行った。

このミュージカルを子供は知っていたようだがおれは完全に初耳かつ初見だ。

いきなり南軍の軍歌っぽい歌で始まる。北部野郎の血の海を降らせるぞのような、いかにも諸外国の国歌(軍歌)っぽい勇ましい歌で(なのだがフレーズは物悲しくもある)、異様に耳に残る。

軍人の着ている服が真ん中ボタン留なので、おれの知っている胸を覆う南軍の軍服と違って違和感がある。後で調べたら兵士の服としては正しいもので、おれが南軍の軍服=捜索者のネイサンの軍服と思い込んでいるのが原因だった。

捜索者 (字幕版)(ジョン・ウェイン)

北部(というかブルックリンかな?)出身のユダヤ人のレオは、妻の故郷のアトランタの鉛筆工場に工場長として勤めている。妻とちょっと言い争い(食事についてかな)をした後(レオは南部が大嫌いで、かつ、妻を含めた南部人を知的にバカにしていることが示される)、街中が敗戦記念日のパレードで賑わっている中を、「負けた日を祝って復讐を誓うとはなんと野蛮な連中なんだ。こんなところからさっさと逃げ出したいな」と思いながら工場へ向かう。

一方そのころ13歳だか14歳だかの女工のメアリー・フェイガンはボーイフレンドのフレッドとデートのために給料もらいに工場へ行くと言って出かける。二人が電車へ乗るところの演出は楽しい。別れた後、フレッドは別の女の子をナンパし始めるのでろくでもない奴だなと思わされるが別に伏線でもなんでもない。

フェイガンだけど給料をちょうだい、と事務所でメアリーが言うと、レオは名簿を調べて(要は南部人の工員とかまったく興味もなにもないのでいちいち覚えていない)そんな人はいないよ。社員番号は? と聞く。501です。レオは名簿を見直して、あー、phのフェイガンなのかFaganかと思ったよ、といって時給10セントだから1ドル20セントになるね、と言って金を渡す。なんか、このシーンは妙に鮮明に覚えている。

メアリーの死体が見つかる。

武田真治(病み上がりらしいが全然そんな様子はなくプロだなと思った)が新聞記者の役回りで出てくる。この事件はおいしそうだ。(ジョージアのマスコミのでっち上げ記者といえば、クリントイーストウッドのリチャード・ジュエルにも出てくるな)

一方、知事はこのての猟奇殺人を早急に解決しないと市民が暴れ出しそうだと気が気ではなく検事をせっつく。

ここでこの検事(ヒュードーシーという名前だがドーシーと言えばジャックドーシーを思い浮かべるのはしょうがない)が静岡県警のように張り切ってでっち上げをしまくることになる。

とりあえず連行してきた黒人の掃除夫(実際には犯人ではなさそうだが)を犯人としても、あまりにも当たり前で市民に対してインパクトは無い。

しかし北部から来たユダヤ人、しかも経営側で偉そうなやつだ、が犯人なら最高の政治ショーになるぞ。

というわけでレオが家でくつろいでいるところを逮捕する。レオはコーヒーが飲みたかったが、それすら許さずに連行する。

ジムコンリーという工場の守衛のところに警察(だと思う:追記、子供がドーシーだと教えてくれた)がやって来て、脱獄したことを不問にする代わりに役に立てと告げる。

一方、レオは完璧に無実なので刑務所の中で全然平気でいる。一方、街中の不穏な空気を読んだ妻は裁判の間雲隠れしようとしていると面会時に言って、レオから止められる。

かくして新聞記者、南部人、検事が一丸となってでっち上げに走りまくって裁判の幕が開く。

裁判は、バラエティに富んだ歌と踊りで実におもしろい。

女工3人組によるフランクさんは嫌らしい覗き魔で女工を執務室に連れ込むのよの歌、レオが見たこともない娼家のミストレルによるフランクさんはいつだって子供がお好き、時々黒人男性と二人にもなるのよ(ラブホテルみたいな利用方法もあるのか?)の歌、家政婦のご主人は変態さんよの歌(レオの妻が恥を知りなさいと怒鳴る)、そして守衛のジムコンリーによるおれはフランクさんに頼まれて死体を地下室へ運んだよ、いつもの通りにね。100ドルもらってるし、の歌(これは実におもしろい。坂元健児という人で抜群)などなどとヒュードーシーによる煽り演説の歌が混じり合って、当然のように有罪となって、傍聴席は大喝采、北部のユダヤ野郎を絞め殺せの大合唱の中で一幕は終了。

というか、まともな弁護士なら100ドル(時給10セント時代なのだから、10セントを現代日本の1000円とみれば100万円相当になる。それが複数回だと証言しているのだから)の支払いがあり得ないこと(レオの性格から、工場の帳簿に使い込みは見つかるはずもなく、レオの家の家計簿からその額のポケットマネーも出せないことは明らかではないか?)について反対尋問すればそれで偽証がすぐに明らかになると思うのだが、なぜかそういうことは(歴史的事実としても)無いのだな。

2幕は、妻のルシールフランクが大活躍。

1年がたっている。最初は無能な女は出しゃばるなと虚勢を張っているレオではあるが、檻の中からは手も足も出ないし、そもそもその態度が(それにしても事実ではなく、感覚で犯人を決めるという野蛮な法治仕草(あくまでも仕草であって法治とは言えない)はいやなものだな)自分を追い詰めているし、そもそも後5日で首を括られるのにどうするつもりか? と指摘されてぐうの音も出ない。

かくして二人でデュエットで信頼と正義のための歌が何度も入る。

ルシールは知事の元に訪れ、この有罪を認めるなら愚か者か臆病者かどっちかだと告げる。

そもそもドーシーを焚きつけたのは知事なのだが、今度は知事の妻が夫を諫める。

かくして知事が調査に乗り出す。

3人組の女工は誘導尋問に引っかかってドーシーに入れ智慧されたことをばらしてしまう。

家政婦も同じく。

共犯として1年の刑で服役中のジムコンリーはブルースを歌いまくりながら徹底的にごまかすのだが、こちらは検死報告からあり得ないことが証明されている(というか、これもなぜ裁判では無視されているのか謎だが、検事が隠していたということになるのだろう)のであまり問題ない。

かくして、知事の元に、活動家トムワトソンがやって来て余分なことをすると大統領になることはできないぞと脅す。

・活動家とプログラムに書いてあるので、労働運動か人種差別反対運動の活動家だと思い込んでいたら、KKK的な(WikipediaではKKKと直接的な関係があるという証拠はないとされているので、「的」)活動家だった。

それでも知事はほとぼりがさめたら再審をさせるつもりで、終身刑に減刑する(何しろ死刑執行まで数日しか無いからだ)。妻が勇気を与えてくれたのだ。この物語は、レオとルシール、知事と知事夫人の2組の夫婦の物語(そして、どちらも真に力強いのは妻のほうという)でもあるのだった(とはいえ、知事夫人は決めぜりふを連発するが歌的な要素はなかったような)。

かくして、2000年前に一人の無実のユダヤ人を有罪とした知事がいた。彼の悪名は未だに皆が覚えている。私は、それを望まない。と激昂した南部人を前に歌いまくる。

(2000年前ってなんだ? と観ているときは思ったが、それは「知事」に引っかかったからだ。都督と翻訳されていれば、あーピラトか、とすぐにわかったとは思う)

妻が面会に訪れ、(所長に賄賂を贈ったおかげで)レオと一緒に食事を取る。賄賂を受け取る所長というのはミソだったのだな。二人は美しい歌を歌う。自由への希望に満ちている。

・追記:演出は最初の南軍の歌のところで紙吹雪を舞台に散らして、それがさまざまな役割をする。ここでは牢獄の中がピクニック(これは1幕の夫婦喧嘩のキーワードだった)の野原となる。蝶々夫人で、鈴木と蝶々夫人が部屋の中を花で埋めて希望に満ちた美しい歌を歌うシーンと妙に照合している。

そしてズボンを履く猶予もなくフレッドを初めとした謎の男たちにレオは連れ出される。

有罪を認めろと迫られたレオはシュマイスラエルを歌いだす。歌い終わることなく首を吊られて死ぬ。

(おれにとってシュマイスラエル(と聞こえるのでシュマイスラエルと覚えていたけどカタカナではシェマイスロエルらしい)はシェーンベルクのワルシャワの生き残りなのだ)

ユダヤ人を政治がスケープゴートにすると言えばドレフュス事件(この事件も1つのきっかけとなってこんだパレスチナの民がひどい目にあうのは別の話)は知っていたが、アメリカにもレオフランク事件というのがあったのだな。それは知らなかった。

・という赤いジョージアが今では青いジョージアになっているのは興味深い。

主演の石丸幹二は知的かつ高圧的、でも誠実な人の役をうまく演じていて気に入った。ルシールの役の人も(えらく難しそうな飛びまくる歌なので)ときどき?と思うところもあったけど、デュエットの良さとか印象的だが、ナンバーのおもしろさも手伝ってジムコンリーが儲け役だなぁと思った。

とにかくミュージカルとして実にうまくできている。ほぼ全編が歌(これがバラエティに富んでいるのが見事だ)なのに筋立てがきっちり見える。


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