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日々の破片

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2021-02-11

_ 「歌え、葬られぬ者たちよ、歌え」読了

とても良い余韻だ。

生者と死者が行きかい血が巡る物語だが、中南米文学とも欧州文学とも異なる、なるほどこれがアメリカ文学なのだな。

ミシシッピ州の奥で暮らす少年(10歳くらいか?)と妹(3歳くらい? 最後に美しい歌を歌う)、その祖父(ほとんどネイティブアメリカンな逞しくて大木のような黒人――意味わからなかったが訳者あとがきに、一滴でも黒人の血が混じっていると黒人と分類されるとあって、そうなんだと納得)、癌で死にかけている祖母(欧州的な意味での民間薬学者、つまり魔女)、少年を妊娠したので高校中退した母親(結構麻薬中毒気味で、兄の亡霊を見られる)、母親の兄(亡霊だが最後に見せ場がある。高校生の頃、白人の同級生よりも狩りが上手なため、撃ち殺される。みんな撃ち殺すところを見ていたが、狩猟中の事故ということでおさまる。おさまらなかったのが、殺したやつの従兄で後の父親)、その父親(油田労働者の白人で良いやつ)、父親の父親(頑迷な差別主義者なので少年の母親を撃ち殺そうとしているし、孫の存在を認めない)、父親の母親(基本、南部の白人だが夫と異なり、息子はかわいいので、孫も嫌いではない)、鳥(祖父が強制労働させられ(犯罪の有無とは関係なく強制労働させるために黒人は刑務所で働かされるので、運悪く収監されてしまった)ていたときに庇護せざるを得なかった少年囚の亡霊で、少年と妹にしか見えないが、最後には大暴れする)、母親の同僚の麻薬の売人をやっている白人女性、その知り合いの麻薬の卸元、悪気はなくどちらかというと良い弁護士(でも麻薬大好き)が、家畜を殺したり、刑務所へロードムービーしたり、殴り合ったり、ゲロを吐いたり、警官から隠すために大量のメタドン(ヘロイン中毒の治療薬として導入されたのにヘロインよりも中毒性が強い麻薬、ってそもそもヘロインがマリファナよりも安全安心な麻薬としてばら撒かれたのと同じような構図だ)を飲み込んで死にかけたり、本当に死んだり、殺されたり、殺したり、成仏したり、亡霊としてさまよったりしながら、生きている物語。

祖父母を父さん、母さんと呼び、母親は名前で呼ぶ少年の一人称で物語は始まる。

少年はまだ人生を長く生きていないから、書かれることは目の前で起きていることと祖父から聞いた矯正施設(刑務所とは微妙に異なるようだ)での強制労働のことだ。少年のパートは文章が美しい。

話し手が母親に変わる。同じく目の前で起きていることと、今は刑務所にいる夫に関することがほとんどだ。夫の父親に対する恐怖。

語り手を変えながら、出所する夫(父親)を迎える車上の物語となる。麻薬の卸元、弁護士などが次々と出てくる。

帰りの車が警官に停められて強制的な捜査が始まる。少年は射殺されそうになる。

帰宅すると両親がいないため、夫の家に行くことになる。そこでのひどい扱い。

やっとのことで両親の家に向かうと母親(祖母)は死にかけている。祖母は母親に死の儀式を依頼する。

一方、刑務所から同乗している黒い鳥(祖父の矯正所での仲間であり、物語の語り手の一人でもある)は、自分の最期を祖父から聞き出すことを要求する。

祖母の死の床に兄が現れ、少年と協力して黒い鳥を追い払う。そして祖母と共に昇天する。

黒い鳥はこの世界に残っている。少年が気づくと世界は黒い鳥でいっぱいである。妹が歌を歌うと黒い鳥たちは帰路について唱和する。この章は抜群に美しく、何が起きるのでもないが救済感があって読後が心地よい。

主人公の男の子の語りのパートが妙に文学的表現(しょっぱなでいきなり「ぼくは父さんが地面に残していくやわらかな内臓の血の痕をたどる。その血の痕は、ヘンゼルが森にまいたパンくずと同様、まちがいなく愛の目印だ」とか独白するので、お前、まともに教育を受けられる環境にいないのになぜだ? と驚いた)だが学校の図書館(星座の正確な名前を言うところで図書館を利用していることがわかる)のおかげなのか。

タイポ(イルカがルイカになるような片仮名の入れ替わり)を1か所見つけたが見つからないので後でメモする。

歌え、葬られぬ者たちよ、歌え(Ward,Jesmyn)


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