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日々の破片

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2021-11-12

_ 甲州の聖牛

甲州へ旅行した。

知らなかったことがたくさんで実におもしろかった。同じ東京の隣でも秩父山地を越えないと行けないだけに、埼玉(西は秩父があるが、東は同じ関東平野で平たい)や千葉、神奈川とは全然違う。(というか身延山も漠然と近畿奈良のほうにあるのだろうくらいの認識だったので、無知というのは恐ろしいものだ。反省して身延山にも脚を伸ばすことになった)

まず初めて知ったのは聖牛という武田信玄が発明したと言われている構造物で河の流れを変えたり護岸のために並べたりする木と石で作った四面体の骨格(中には石を置く)で、棟木は大きなものでは9mにもなるとある。

実物が信玄堤に置いてあって記念撮影したがでかい。

聖牛によりかかるおれさま

で、信玄堤には信玄治水の跡として甲州の6か所の遺構(現役もあるだろうが)についての解説が置いてあって、これが実におもしろかった。

で、考えてみるとこういうことなのかなと武田信玄という寿命が尽きなければ信長-秀吉の代わりに日本を支配したかも知れない人間について想像した。

甲州盆地: 本当に盆地でこの季節だと4時には太陽が沈む(当然、夕焼けの赤にすらならずに、白光のまま山の向こうに消えてしまうのを見て、おおこんな光景がこの世にはあるのかと驚いた。太陽は消え去っているのにあたりは白光が残るので、ちょっと見たことないけど白夜ってのはこういう状態なのかなとか思った)

河川: おれが良く知っている群馬の盆地と異なり火山が無いからではないか(富士山は盆地を囲む山の外側)と考えるが、とにかく河川が多い(日川、笛吹川などなどたくさん)。河川は多いが盆地からの抜け道は富士川しかないのでがんがん氾濫する

ということを感じた後に、武田信玄の事跡として信玄堤の6か所の治水跡についての説明を読んだわけだったのだ。とにかくそこら中で水を人智で利用するように様々工夫をしている(削ったり、石を敷いて流量を調整したり、実にいろいろ。その中で特に目立つのは聖牛という斜めにした木(最大で9m)を△に組んだ2本の木を並べたものに渡して中に石を詰めて支えたものを堤に並べて護岸する構造物で、昭和34年にはまだ現役でたくさん作って氾濫後の護岸工事をした写真があったくらいだが、地元的には信玄が考え付いたものらしい。信玄堤のは展示物のような扱いだったが、笛吹川通りから河を見るとところどころに現役で使われているっぽい聖牛があって、妻と、知らなきゃありゃなんだろう? 魚を取る仕掛けかなとかになってたなと話し合う。

→ ということは、本来河川敷のような余裕がない(信玄堤を見ると、いきなり川になっている)甲州盆地の渓流の周りに人工的な堤を作って農地を確保するという生活空間として実に重要な仕組みを作ったのが信玄ということになる。

その意味では信玄堤がある竜王という地名も興味深い。経緯は知らんから大間違いかも知れないが、竜は水神だからしょっちゅう大暴れしてあたりを洪水させる危険地域だったのを信玄が聖牛を使って鎮めたみたいな扱いかも知れない。

→ 治水(農業用水、農地、水害に合いにくい農家)は治世の要諦で聖王の仕事(堯舜の故事)というわけで、信玄が甲州人にとって神の位置になるのは当然

→ 農地の確保(領内の安定=ミクロ経済の支配)とは別に周辺部族を滅ぼして奴隷労働力を手にして金山経営で日本とのマクロ経済も支配

(そいういえばブラタモリで伊達政宗が仙台を支配下に置くために行った治水事業の跡を見るのがあったが(追記:知らなかったが信玄の治水についてもやったらしい。観てから行くとおもしろさ三倍増だったような、知らずに行って知っておもしろさ三倍増なような、どちらにしてもおもしろいからいどうでも良いけど)、戦国時代の地方豪族にとっての治水事業と武力(というのは兵隊(ミクロ経済で支える)と軍備(マクロ経済で支える))の関係は興味深い

それとは別に甲州から見る富士山が格別だった。

信玄堤がある竜王を後にして、甲州街道を東へ下るところに差し掛かったのが16時30分くらいで日本としては微妙に日の入り前だが甲州盆地ではとっくに陽は沈んでいるわけだが、盆地を囲む山の向こうに富士山が見事に見えて、しかも宝永山なしのきれいな扇形で息をのむような美しさだ。

なるほど、これは霊峰と呼ばれるはずだと、普段見慣れた(東京の富士見町みたいな名前のところや、平塚あたりから見るのと全然違うのは、とにかく手前の山並みが随分と近くて高く見えるからだが)富士山とは全然違って感銘を受ける。

翌日、反省したので身延山に行ったわけだが、あまりにも富士山が美しかったから上からも眺めようとしてロープウェイで奥の院思親閣まで行って駅前の展望台から望んだわけだが、富士山はほぼ全体の手前に雲がかかっていて残念、途中の傾斜が少し見えるだけだった。

それにしても盆地を囲む山並みと富士山の遠近感が抜群で、甲州って妙だなぁと感じ入った(信玄がやたらと京に進出したがったのは権力よりも地勢ではないかとかも思った)。


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