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日々の破片

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2023-01-20

_ 南部の反逆者

録画したラオール・ウォルシュの南部の反逆者(これは酷い邦題。天使の野郎どもが良い(女性もいるけど元水夫長今船長、しっかり北軍でのし上がるために居残るクラ坊、結束は固い))を見た。満足しまくり。ほとんどの白人男性(主役の女性も)がここぞとなると差別主義者の馬脚を顕す演出が上手い。

それにしてもクラークゲーブルの声が良いことに気付く。声が良いからイヴォンヌデカーロが街角の奴隷の公開入札のポスターを見てゲーブルの行動の凄さを思い出すシーンが生きる。

とはいえ船長とゲーブルが嵐の中庭ではしゃぎまくるシーンが1番好き。

主演として最初にクラークゲーブルがクレジットされたこと以外はわからないまま観始める。

黒人奴隷が脱走して捕まるところから物語は始まる。

農園主は鞭打ちをしよとする奴隷商らしき人たちを制止する。父と娘マンティの二人と大勢の奴隷がいる屋敷だ。奴隷の一人が娘に将来は農園主になること言うと別の奴隷が怪訝な顔をする。

主人は家庭教師から教わることはなくなったとマンティに告げ彼女は寄宿制の女学校に入ることになる。

学校に9年間在学していることで級友とは奇妙な隔たりができている。が、セスという牧師見習いと恋仲になったりそれなりに楽しく暮らしている。セスは人類は平等と考えているので奴隷制度に批判的だ。あら私の父は奴隷を鞭打ったりはしないわ。いや奴隷に優しく接することはダブルバインドすることだからそれも良くない。奴隷制度そのものが問題なのだ。(わりと物語の最初に高邁な批判を周囲をものともせずに語るのはアンドレアシェニエみたいだが、セスの役者はクレジットされていないか後のほうなので、こいつが端役なのは間違いないなぁと観ている)

父親危篤の報に農園に駆け付けると、様子がおかしい。奴隷商が来て、お前は奴隷と死んだ親父の娘だから奴隷であると宣告して娘を他の奴隷と共に連れていく。家庭教師の陰謀らしき様子が描かれるので、その陰謀を解決する話なのか? と思うと全然違って、マンティが黒人として扱われることはその後も変わらない。もっともイヴォンヌ・デ・カーロはどう見ても黒人とのハーフには見えない。

船の中で別室を与えられて奴隷商が迫るが撃退するのだが(最後には首を吊って見せる)、長くは続かないことは暗示される。

オークションにかけられて一人の男に値踏みされているところに、5000ドルと声をかけながらクラークゲーブル扮するヘイミッシュ・ボンド登場。直前の元気な奴隷が200ドル程度だったことを考えると破格の値付けなのだろう。

せっかく高値で買ってもらってそれなりの生活を用意してもらったにもかかわらず娘はとげとげしいので観ていて不快になる。が、船の中でいろいろあったのだろう。

クラークゲーブルのミシシッピの館はあばら家と本人には呼ばれているが立派なものだ(中庭を取り巻く回廊に部屋が配置されていておもしろい。フランス風なのか?)。ミシェルという女性とラウルという男性が特に重要な役として紹介される。が、とにかくマンティはすぐにでも脱走しようとして目が離せない。

嵐の夜、館を二人の男が訪れる。一人はすぐ帰り、一人は居残る。ヘイミッシュの古い友人(部下のようだ)の航海長、今は自分の船を持つ船長がいきなりラムをぐい飲みしてどういう男か示される。この一連のシーンはとても好きだ。それまでのヘイミッシュと雰囲気を変えて二人は腕相撲したり馬鹿話をしたりし続ける。二人がついている机は中庭のはずだが嵐は音と稲妻で示される。

船長が帰ってヘイミッシュがふと回廊を見上げるとマンティの部屋のフランス窓が開いていることに気付く。

マンティの部屋にカメラが変わる。嵐にまぎれて脱走したのか? と思うと普通にベッドに寝ていて、風音で目が覚める。窓を閉めようとするが風が強くてびくともしない。

別の側の窓からいきなりヘイミッシュ登場。すごい腕力で窓を閉めて去っていく。

このシーケンスは二人の関係性の変化を見事に示していて抜群。船長の訪問からの一連の流れは観ていて実にわくわくする。

その後、ヘイミッシュはマンティが旅立てるようにお膳立てしてから同じ船で農園へ向かう。マンティは農園で下船せずにそのまま北部へ行くようにはからってある。

岸辺に多数の奴隷たちがいてハレルヤを歌っている。ヘイミッシュの帰還を歓迎するためだ。

マンティは結局下船する。

館(こちらはミシシッピの家より遥かに立派)にシャルルというフランス語を話す紳士が近づく。最初ヘイミッシュはマンティを紹介しようとしないどころか会わせないようにしようとする。マンティが抗議するとやつは紳士ではあるが……と口を濁す。

ヘイミッシュはマンティを残して買い付ける予定の廃農場を見学に旅に出る。

ラルーはセスのようにダブルバインドを自覚している。ヘイミッシュがおれに優しくすることが問題なのだ。機会があればヘイミッシュを殺すとマンティに言う。

マンティはシャルルと親しくなるが、突然シャルルが襲い掛かってくる。黒人は文句を言うな。ラルーが助けに来ると考えているだろうが、野郎がおれに手を出せば縛り首だからそれは有り得ない。だから大声を出すな。

が、マンティーは叫ぶ。駆け付けたラルーは少しためらった後にシャルルを殴り倒す。

ラルーが犬に追われている。が、ラルーは沼の中に入っていく。犬は匂いが追えなくなりクィーンとか泣きながら追跡者に謝る。ここから先は延々と沼だから野郎の墓場になるだろうと言いながら追跡者たちは踵を返す。

北軍が勝利する。南部州旗がおろされて星条旗がかわりに上がる映像で示される。

マンティはヘイミッシュになぜ結婚してくれないのか? 私が黒人だからか? と問い詰める。

ヘイミッシュは自身の過去を語る。若い頃アフリカで当地の部族長と組んで村を焼き払い女子供を殺して奴隷を詰め込んで財をなした。この話を聞けば黒人のお前はおれとの結婚を望まないだろう。

マンティは勧められるままに館を後にして市街で一人暮らしを始める。ここはすごく不自然な気がするが(マンティ自身は自分を全然黒人として自覚していない、それはラルーにも指摘されるし、衝動的に犬の番人のくせに人間を番していると口走ったりもする)まあそういうものとして観続ける。

シャルル登場。北部の野郎が収奪できないように綿やサトウキビを燃やすぞ。

ヘイミッシュは即座に断るが、北軍の将軍の名前と放火犯は縛り首という命令が出されたことを聞かされて南部魂に火が点く。かくしてすさまじい炎上シーンが続く。

放火犯として追われるヘイミッッシュ。木陰に隠れていた黒人兵士がヘイミッシュを見つける。おれは北軍兵士になったが、今でもあんたを主人と思っている。廃農場に食料などは用意してある。そこへ行け。ヘイミッシュ逃げる。黒人兵士は追跡者たちに別の方向を示し、あちらで物音がした。ヘイミッシュだと思う(この言い回しはうまいと思った)。追跡者たちはヘイミッシュが逃げたのとは別の方向へ向かう。

北軍の将軍がかすなのは、町を歩いている女性から侮辱された次のシーンでは将軍命令として北軍を侮辱する南部女性は街の女として扱っても良いという布告を出すことで示される。

この布告を見た北軍兵士3人組は町を歩くマンティを罠にかけて侮辱されるように振る舞いまんまと命令にある通りに手籠めにしようとする。が、それを生真面目な北軍中尉が見ていたせいで追い払われる。

かくしてマンティは北軍の中尉と良い仲になるのだが、彼の所属する部隊の隊長がセスだった。中尉の書いた報告書にマンティの名があることに気付くとダンスパーティーの会場でまんまと中尉を追い払ってマンティに近づき再会を喜ぶ。

が、しょせん借り物思想の平等主義なのでマンティに対して黒人奴隷なんだからOKだよなぁと手を出そうとして拒絶される。あわてて謝るがもう遅い。

行く当てもなくマンティはヘイミッシュの館に行くと灯りが見える。中に入るとラルーが主人の椅子に腰掛けている。ラルーは北軍の黒人部隊に入り出世街道を邁進中なのだった。というのも、ヘイミッシュは禁を無視してラルーに高度な教育を授けているから普通の奴隷とは頭の中が異なる(それは最初の登場時に、ヘイミッシュの代わりに相場の動きや運輸状況からいつ綿を売るのが最高益となるかの戦略を話すシーンで示されている)。

ヘイミッシュがいると思ったのか? やつは1000ドルの懸賞金がかけられている。

ラルーからヘイミッシュが廃農場に潜伏しているからこれから捕まえると聞かされたマンティは一緒に廃農場へ向かう。

一方、廃農場(川辺だから海辺だかにあることは先に話されている)に船長の船が近づく。ヘイミッシュ、助けに来たぜ。

やっぱりあの船長が助けに来ると思った、と嬉しくなる。

が、まだ終わらない。

ラルーがヘイミッシュの始末について悩む。ヘイミッシュはアフリカでの略奪時に倒れた女の下に赤ん坊がいること、それも串刺しにしようとする奴隷狩りの部族長の部下を殺して助けたこと、それを部族長が楽しそうに見ていたこと、その赤ん坊を連れて帰り自分の息子として扱ってきたことを語る。

このシーンはへたをすると単なる命乞いの浪花節になるところをクラークゲーブルが深みのある声で淡々と語るので実に良い。

ラルーのダブルバインドが助ける側に傾く。

そこに北軍の上官が登場。ラルーはすかさず手錠をヘイミッシュにかける。

上官殿、ヘイミッシュを捕まえました。懸賞金は私のものですね。

黒人には金は要らないだろう? 私の成果にする。

それはお断りです。といった会話の中にさりげなくラルーは「鍵」という言葉を織り交ぜる。

ヘイミッシュが手錠を見ると鍵がさしてある。

ヘイミッシュ、上官の部下2人に連行される。

上官とラルーは戦果の配分について話し始める。お前は黒人なんだから金をやるから栄誉をおれに寄越せとかなんとか。

ラルーは考えるふりをして外を見る。ヘイミッシュが手錠を外し、2人の兵士を殴り倒して脱出するのを見届ける(これもロングを生かした良いシーン)。

金も栄誉も私は不要です。そうか、お前は賢いニガ……ネグロだな(こういう内心の示し方は脚本の隅々まで行き届いている)。

ヘイミッシュとマンティは船に乗る。

ラルーの去就の緊迫があるシーン。ラルーは残ることを選択する。

おもしろかった。


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