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日々の破片

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2023-01-22

_ 新国立劇場でキングアーサー

場所は新国立劇場だがホリプロのミュージカル。

作者は、モザール1789の人で原題はLa Légende du roi Arthurだから「アーサー王伝説」とかのほうが良い感じ。

それはどうでもよくて、随所にこのグループらしい、アニメ声女性のポップソング、やたらと力の入った歌唱による敵役の歌とかが入る。のだが、手慣れすぎているせいか、いささか古臭くも感じる(とは言え好きなんだが)。

La légende du Roi Arthur(VARIOUS ARTISTS)

(好きなんだが、グィネヴィアはマリーアントワネットやコンスタンツェに被るしメレアガンはサリエリに被るし(第1幕では。3幕以降はなんか別の世界となる)、ならばモザール聴いていればいいじゃんという気もしないでもない)

物語はフランス寄りのアーサー王伝説なのでケイ卿は無能な道化者(道化師ではない)、ランスロ(というかなぜフランス人がブリテンの田舎の湖の畔に住んでいるのかは謎)は心技体すべてが別格の騎士、グィネヴィアは愛のない(いや嘘だろ)結婚をしてしまった悩める女性とはなっている。ガヴェインはアーサーの師匠格だがそれほど活躍はしないし、ボオールやペルセヴォは出てこない。

本来の話(ケイが剣を折ったために、そのへんに突き刺さっている剣をアーサーが抜いたら、いきなりみんなが跪くというようなドラマティックな展開)はともかく、物語はアーサーとメレアガン、モルガンの確執にランスロとグィネヴィアの愛の物語がからむというように変わっている。

最初マーリンが王が死んだあとに後継者がいない。だが、大丈夫、救国の英雄が出現すると預言して舞台背景を説明して引っ込むと、亡きブリテン王の後継者を決めるために騎士たちが試合を繰り広げている場面となる。カイは剣を家に忘れてきたために参加できない。どうしようアーサー? と弟(この時点ではそうとしか説明されない)のアーサーに聞いたりしている。

優勝したメレアガンがエクスカリバーを引き抜こうとするが剣はびくともしない。

そこにアーサーが登場。マーリンに言われた通りに剣に手をかけるとするりと手に納まる。アーサー王誕生である。

人生をかけて修行を積んで騎士の中の騎士となったメレアガンは恥辱にまみれて去る。

かくしてメレアガンは実力で王座につこうと、手近なウェールズ(かどうかは忘れた)に侵攻し、領土を正規に入手するために王女のグィネヴィアを寄越せと王を脅す。助けを求める急使がアーサーの元に来る。

アーサーの政治目標はマーリンに言われた通りに、サクソン人の侵略から国を防衛することと、そのために国王の下に強固な地方豪族による一枚板の体制を構築することにある。

そのためには豪族間の争いは国王として鎮めなければならない。

かけつけたアーサーはガヴェイン仕込みの剣技というよりはエクスカリバーの魔力によってメレアガンを打ち負かす。

騎士でもないお前をおれは認めないと叫ぶメレアガン。

アーサーは「騎士の中の騎士、メレアガンによって騎士を拝命したい」とエクスカリバーを手渡す。

とてつもない屈辱に震えながらアーサーに対してエクスカリバーの名のもとに騎士の位を授ける(王と騎士というのは位相が異なる地位なのだな)。

そのあとにすばらしい歌を歌う。どう見ても聞いてもここまではメレアガンが主役も良いところだ。

さて助けられた地方の王はグィネヴィアをアーサーに与える。この時点ではグィネヴィアもまんざらではない。

が、マーリンに政治を教えられていくうちにアーサーはプレッシャーに悩み始める。

しかも妹を称する謎の魔女(マーリンの魔法使い呼ばわりもそうだが、非キリスト教の宗教団体はすべて魔扱いというだけのことだ)のモーガンが城にやってきていろいろアーサーの父親の悪行を吹き込む。私の母をお前の父は犯したのだ。生まれた不義の子がお前だ。母はそれで心を病み死んだ。お前の父の非道の行いにはマーリンも荷担していたのだ。などと吹き込む責め立てる。アーサーが聞くと正直者のマーリンは、だって御父上はモーガンの母親のことを本気で愛したんだからしょうがないじゃん、と言い放つ。

なるほど、西欧におけるloveという概念は肉欲と等しいのであるな。エロスとタナトスの問題はのちに日本へ渡った宣教師を悩ませ、love(のポルトガル語)の翻訳語として「御大切」をひねくりだすことになるのもしょうがない。

と、本気で愛したら強姦OKという考えにはさすがに現代の脚本だけにアーサーもすんなりとは受け入れられず悩む。

あまりにアーサーがいろいろ悩んでいるのでグィネヴィアは孤独を感じる。

そこに国内ではイケメンとして知られるが実力も伴うランスロ登場。ひとりでふらふらしているグィネヴィアを人妻とは気づかずに騎士として忠誠を誓いかけてしまう。

というような調子で物語は進む。

ケイが悩むところはおもしろい。アーサーの父親が前国王ってことはおれとは異父弟、と思っていたら母親も違うってことは、おれは一体あいつのなんなんだ(この物語ではケイ卿は円卓の騎士には含まれない)? そこにマーリン登場。「そりゃ乳兄弟じゃん」「なるほど!」これは見事な説明でマーリングッドジョブと思わず感心。

曲のいくつかはケルト調にしようとしているのだが、なんか日本の音頭のようにも聞こえる(テンポの問題のような)。

物語的におもしろいなと思ったのは、アーサーの敵はサクソン人なのだが、結局ブリテンはサクソン人に支配されてしまって、現在の主流民族はアングロサクソン(イギリス化したサクソン人)だという点だ。でもアーサー王はイギリス人の歴史的英雄とはなっているらしきところがおもしろい。

この構図を日本にあてはめると建国の英雄が熊襲タケルのようなものだ。が、実際には建国の英雄はコウスあらため大和タケル(タケルの名前は熊襲タケルが与えたことになっているので、名は残せたと言えなくもない)であって、あくまでも熊襲は滅ばされる敵側でこの違いが興味深い。ちなみにアーサーは語源としては熊男らしいので、まったくもって熊襲であった。

歌手は(特に3幕の死にそうなほどファルセットで歌いまくるメレアガン、それにしてもなぜここでこんなに大変な曲を持ってきたのかは謎だ)全員うまいものだし、演出も美しい(舞台美術も良い)。

とても楽しめた。


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